かつては「夫は仕事、妻は家庭」という役割分担が当たり前とされてきました。近年では共働き家庭が増え、このスタイルは徐々に減りつつありますが、それでもなお家計の管理をどちらか一方に任せきりにしている夫婦は少なくありません。ところが、このような体制が思わぬトラブルを招くことも。見ていきましょう。
優しい妻と可愛い娘「文句のつけようがない家族」
高山正さん(仮名・58歳)は地方の中小企業で働くサラリーマン。年収は850万円、成績がよかったピーク時には1,000万円を稼いだことも。地元ではそれなりの収入を得ていると自負していました。
結婚したのは39歳のとき。5歳年下の妻は子どもを授かったタイミングで退職し、専業主婦として家事や子育てに専念するようになりました。
家計は「家庭を守ってくれる妻に任せる」のが自然だと考え、毎月7万円を自分のこづかいとして別口座に入金し、その中でやりくり。足りないときには「はい、どうぞ」と財布から出してくれる妻。お金のことでもめたことはありません。
妻は、自分が荒れた学校に通っていたこともあってか「環境が人を作る」「ちゃんとした教育を受けさせたい」が口癖。一人娘が小学校に上がる頃からお受験に取り組み、中学から私立校へ進学しました。
高山さんも求められるままに全面的に協力。もちろん、公立に比べればお金はかかりますが、「子どもは一人だし、しっかり支えてあげたい」という思いがありました。
エスカレーター式の私立だったため、そのまま大学も私立に進学。その間に、学校に通いやすい立地の新築マンションを購入。これもまた妻たっての希望で、高山さんは「いいね、そうしよう」と受け入れたのでした。
優しい妻、可愛い娘。平和そのものの家庭に満足していました。そんな高山さんも、いよいよ定年まであと2年。一足先に定年を迎え雇用継続で働いている先輩に聞くと、収入が5割程度に減ったと言われました。
「5割? いや、7割ぐらいはもらえるんじゃないんですか」
「俺もそう思ってた。でも、今いろんな手当がついてるだろ? そういうの全部なくなるからね。もう減りすぎて、仕事のモチベーションを保つのが大変だよ。もう会社員としてはアディショナルタイムだ。お前もちゃんとお金のこと考えておいた方がいいよ」
笑いながらも真剣に助言する先輩。そうして、妻に向き合った高山さんが知ったのは、驚くべき家計の実態でした。