アメリカのトランプ大統領は、4月から輸入自動車に25%の追加関税を課す文書に署名。これまで日本からアメリカへ輸出する乗用車の関税は2.5%だったが、10倍になった。すでに3月から鉄鋼もアルミも25%関税が課されているが、この「25%」は、トランプ大統領にとってどんな意味を持っているのか?※本稿は、羽生田慶介『ビジネスと地政学・経済安全保障』(日経BP)の一部を抜粋・編集したものです。
● 禁輸に匹敵するほどの 関税25%の破壊力
米中摩擦の中で一方が他方に高関税を課す措置において、「25%」という数字を目にすることが多いだろう。2018年7月に米国から中国に対して発動された第1弾の追加関税、続く8月の第2弾、9月の第3弾と、中国から米国への輸入およそ2500億ドル(合計)に対して、すべて「25%」の関税が課せられた。報復措置として中国から米国に課せられた関税も同じく「25%」だった。
なぜ「25%」なのか。この関税率は、企業がサプライチェーンを見直さざるをえないほどのコスト増につながる、まさに「禁輸」の一歩手前ともいえる強力な措置だからだ。
例えば輸入自動車の調達価格は、CIF価格(卸売価格に、輸送運賃・保険料などを含めた価格)で、国内売価の80%程度となるケースも少なくない。この80%に対して、さらに25%の関税が課せられた場合、ちょうど国内売価と同額の調達コストになってしまう。この場合、関税分のコストを顧客に価格転嫁できなければ、企業の粗利が丸ごと消し飛ぶことになるのだ。
私が過去に出版した書籍(『すぐ実践!利益がぐんぐん伸びる稼げるFTA大全』)では、表紙で「関税3%は法人税30%に相当」というコピーを掲げたほど、関税がビジネスにもたらすインパクトは大きい。
製造業では工場で、サービス業や小売業では店舗で、空調や電灯のオンオフなどを細かく調整し、何銭何厘何毛といった単位のコスト削減を重ねて利益をつくり出している。地政学リスクがもたらす事業へのインパクトは、例えば関税が引き上がるだけで、こうした企業の不断の努力が一瞬で無に帰すほど大きいと認識しておくべきだ。
● サプライチェーン途絶で 資金のある会社も破綻
基本的に、地政学リスクへの対応には「1カ月しか猶予がない」と肝に銘じておく必要がある。もちろん、海外拠点の移転などには数年単位の準備が必要になるし、高品質な調達先を新たに見つけるのにも時間を要する。だからこそ、いざ有事になる前に、その準備をあらかじめ進めておかなければならない。
「うちの会社は1カ月ぐらい入金がなくても潰れない」と高をくくるのは危険だ。運転資金は十分にあったとしても、商売に必要な商品を調達するサプライチェーンが途絶えてしまえば、会社は操業停止状態に陥る。顧客は、地政学リスク対応を万全にしていた他社に流れていくだろう。
日本企業の棚卸資産回転期間は平均1.08カ月(2022年度の全産業・全規模平均)とされる。店舗であれば、約1カ月で商品在庫がすべて入れ替わる計算だ。適切なタイミングで商品が入荷できなければ、早くも翌月には顧客に提供できる在庫がなくなってしまう。特定の顧客にのみ納品している製造業であれば、欠品によるビジネスリスクはさらに大きい。契約通りに納品できなければ、違約金が発生することもあり得る。
地震や洪水などの自然災害と同じく、地政学リスクの顕在化による「サプライチェーン途絶」は、あっという間にビジネスに致命的なインパクトをもたらす。2022〜23年にかけて世界規模で発生した半導体不足では、多くの企業が倒産の憂き目に遭った。苦しんだのはエレクトロニクス企業だけではない。例えば、家具やじゅうたんを製造している中小企業が、生産に必要な製造機械の部品が届かず工場が稼働停止となり、経営難に陥ったケースもあった。