鳥インフルエンザウイルスH5N1によって世界中で卵価格が高騰している。日本では鶏卵の卸売価格(東京Mサイズ1kg)が2024年2月の190円から2025年2月に312円まで高騰し、3月も2カ月連続で300円超え。米国も同様に、1年前にニューヨークで1ダース3ドル(Lサイズ)近辺であった小売価格が、2025年1月には9ドルと3倍になった。こうした事態に卵の密輸も急増しているという笑えない話もある。だがその裏では、卵流通の業界構造の問題が2点浮き彫りになってきている。その問題とは何なのか、他の産業も同様に起こり得る問題点と教訓を解説する。
【詳細な図や写真】わずか3年で1億6600万羽以上のニワトリが殺処分されている(米国ファームビューロー連合より編集部作成)
卵の「密輸158%増」という笑えない話も…
米農務省は2022年2月から2025年2月にかけて、バイデン・トランプ両政権下で合計1億6600万羽以上のニワトリを殺処分した。今回の局面では、2024年10月からの処置が急増している(下図)。
2025年1月だけでも3000万の卵を生産する雌鶏(産卵鶏)が失われている。その結果、鳥インフル流行前と比較して卵を産むニワトリが12%減少し、2億9200万羽となった。加えて、2月にも1100万羽が処分された。
米労働省の消費者物価指数(CPI)統計によれば、2月の卵価格は前月比で12.5%、前年同月比で59%の値上がり。地域によっては、Lサイズの値段が1ダース当たり10ドル超えも見られる。ニューヨーク市では3月に無料で卵を配布するイベントが開かれ、そのために用意した100ダースに対し2倍の人々が押し寄せ、話題になった。
この状況に対処すべく米国は、世界第2位の鶏卵輸出国であるポーランドをはじめ、フランスやデンマーク、ブラジル、トルコ、インドネシア、そして韓国からも安価な卵を輸入しようと動いている。フランスやデンマークは現在、欧州連合(EU)向け関税引き上げで米国と準貿易戦争の状態だが、トランプ政権からの要請に前向きに対応しているようだ。
しかし、生鮮品で地産地消が基本の卵は、賞味期限が短い上に殻が壊れやすい。そのため、一部は乾燥させたり、冷凍したりする必要が出てくる。また、各国が常に余剰分を用意しているわけでもない。こうした中、「品不足の米国に卵を輸出すれば、儲かる」とばかりに、南隣のメキシコから食品安全基準をクリアしていない卵の密輸が2025年に入って158%も増えたという。