「食の外交官」と呼ばれる公邸料理人のなり手不足の解消に向け、外務省が報酬増や契約形態の変更を柱とした新制度を来年1月から導入することが9日、分かった。新たに在外公館料理人に名称を変更し、従来は定まっていなかった任期も新たに導入する。
■和食人気「料理人の争奪戦」
諸外国の首都や主要都市にある日本の大使館、総領事館では、公邸料理人が腕を振るって和食をはじめとする料理を提供し、賓客をもてなす。こうした料理は外交上、人脈づくりや情報収集に欠かせない重要な手段となっている。しかし近年はその人材確保が難しくなっている。
和食は、増加する訪日外国人観光客に人気が高く、飲食業界内では「料理人の争奪戦が繰り広げられている」(外務省幹部)。日本人の料理人は外国でも引く手あまたで、現地で破格の待遇で雇用されるケースが少なくない。
■安い報酬…十数人分が欠員に
加えて公邸料理人は従来、報酬が年間400万円程度と必ずしも高くなかった上、任期は大使や総領事の任期と同一だったため、日本に帰国後の再就職活動にも困難が伴っていた。
こうした理由から、公邸料理人は人材難が半ば常態化している。外務省によると、世界各地にある計234カ所日本の在外公館は本来、それぞれ少なくとも1人の公邸料理人を擁している必要があるが、現在は十数人分が欠員だという。
■「今やらないと手遅れになる」
こうした状況を改善するため、外務省は現行の制度を大幅な見直す。
具体的には従来、大使や総領事がポケットマネーで報酬の3分の1を支払っていた契約形態を在外公館との公的契約(委託契約)に改め、報酬を年間600万円以上に増額する。住居経費を支給し、従来のように大使や総領事と公邸で同居する以外に、賃貸住宅への居住を認め、配偶者が同行する際の経費も支給する。
新たに導入する任期は原則2年で、その後1年ごとに延長可能とする。
外務省には「今やらないと手遅れになる」(幹部)との危機感があり、新制度の導入を通じ、質の高い食の外交官を恒常的に確保したい考えだ。