80代の親が、ひきこもりなど自立できない事情を抱える50代の子どもを養い、双方が経済的困窮や孤立に陥る「8050問題」。いま、8050問題の新たな形が増えているようです。本記事では、Aさんの事例とともに、“ひきこもらない”親依存のリスクについてオフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。
母の年金に頼り、世界を旅していた息子の帰国
Aさんは現在51歳、5年前に失業を経験しました。ホテルに勤務していましたが、コロナ禍で勤務先の業績が急落し、やむなく退職を余儀なくされたのです。当初はすぐに再就職するつもりで失業手当を受け取りながらハローワークに通い、職を探していましたが、なかなか仕事は見つかりませんでした。Aさんは世の中が不安定ななかで段々と気力を失っていき、自宅にひきこもる生活に。
失業手当が終わりを迎えるころ、Aさんは焦りと諦めのなかで、ふと思い立ちました。
「そうだ。いましかできないことをしよう」わずかな貯蓄を使い、バックパック一つで海外へ。Aさんは以後、約4年にわたり、東南アジアを中心に転々としながら旅を続けました。
住んでいた賃貸のアパートを引き払い、実家に戻ったAさん。失業手当はとうに切れ、職についていなかったため、旅に必要な宿代や食費などを、実家の母親からの仕送りに頼っていました。
母親は78歳。持ち家で年金生活を送っていました。亡き父親の遺族年金を含めると、年金収入は192万円。決して多くはないものの、一度は離れて暮らしていた息子と再び暮らせることをうれしく思い、援助を始めたのです。
まさに自由な生活を謳歌していたAさんでしたが、その終わりは突然訪れました。
「帰国するよ」Aさんがいつものように実家で待つ母親にメッセージを送り、帰国しました。日本は真夏。汗だくになりながら家路につくと、あるはずの実家はそこになく、更地になっていたのです。
Aさんは、絶句しました。あわてて母親にメッセージを送ると、さらにその返信に言葉を失いました。「実家はもう手放しました。戻っても、もう家はありません」。