米アリゾナ州であった発砲事件の裁判で、3年前に被告に射殺され、この世にはもう存在しない被害男性が法廷で「意見陳述」を行った。人工知能(AI)を使って「復活」させたもので、こうしたテクノロジー利用の意義を認める意見がある一方、懸念の声も出ている。
クリス・ペルキーさんは、アリゾナ州の路上で2022年、車が絡んだトラブルを発端とした発砲事件で殺害された。37歳だった。
容疑者は起訴され、故殺罪などで今年、有罪評決を受けた。量刑の言い渡しが今月あり、その法廷で被害者としての意見を述べるペルキーさんの映像が流された。
「私を撃ったガブリエル・ホルカシタスへ。あの日、あのような状況で出会ったことを残念に思う」
グレーの野球帽をかぶったAIバージョンのペルキーさんはそう言うと、こう続けた。
「別の人生では、私たちは友人になれたかもしれない」
さらに、「私は許しと、許す神を信じている。ずっとそうだったし、今でもそうだ」と述べた。
ペルキーさんの「出廷」は、遺族の意向によるものだった。ペルキーさんに自分の言葉で、自分の命を奪った事件について語らせるのが目的だったと、遺族は話す。
女きょうだいのステイシー・ウェールズさんによると、ペルキーさんの録音、映像、写真を元に、AIを使ってペルキーさんを映像として再生させたという。
また、映像で語られた言葉は、ペルキーさんがどれほど寛容な人だったかをふまえて、ウェールズさんが書いた。
この裁判を担当したアリゾナ州裁判所のトッド・ラング判事は、公判でのAI使用について意義を認めたようだった。
「あのAIはとてもよかった。そのことに感謝する。あなたは怒っているだろうし、当然ながら家族も怒っているはずだ。そうした中で、私は許しの言葉を聞いた」
「それは本物だと感じた」
判事は、ホルカシタス被告に禁錮10年半を言い渡した。
■分かれる評価
こうしたAIの珍しい使用をめぐっては、未来への一歩に過ぎないとする専門家がいる一方、裁判での利用が一気に進むことを懸念する専門家もいる。
元連邦判事の米デューク大学ロースクールのポール・グリム教授によると、アリゾナ州では最高裁が判決を一般の人々にも分かりやすくする目的などで、すでにAIを使っているという。
今回のAI使用については、陪審員が関与しない、判事だけで行う量刑の決定だったために認められたと、同教授は説明。
「私たちはケースバイケースで(AIに)頼っていくことになるだろう。ただ、このテクノロジーは抗しがたい」と述べた。
一方、米カーネギーメロン大学でビジネス倫理学を教えるデレク・リーベン教授のように、AIの利用と、今回のケースが前例となることを懸念する識者もいる。
同教授は、今回の遺族の意図や行動を問題視してはいないものの、すべてのAI利用が被害者の希望に沿うとは限らないとし、こう述べた。
「今後、他の人が同じことをする場合、被害者が望んだであろうことに、私たちは常に忠実でいられるのだろうか」
それでも、遺族のウェールズさんは、今回のAI利用で、被害者に最後の言葉を与えることができたと思っている。
「これ(AI)は強力なツールなので、私たちは倫理とモラルを意識して今回のことに取り組んだ。ハンマーは、窓を割ったり壁を壊したりするのに使えると同時に、家を建てる道具としても使える。私たちはこのテクノロジーを、後者として使った」
(英語記事 Arizona man shot to death in road rage ‘returns’ to address his killer)
(c) BBC News