「オレを殺すか、ヨリを戻すかだ」――付き合うごとに「疲れ」を感じてしまう男性と、恋人関係だった23歳の女性。やがて別れ話を切り出すと、男は恐ろしい脅迫行為を働くように…。2019年に起きた放火事件の顛末を、ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『 実録 性犯罪ファイル 猟奇事件編 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/ 続き を読む)
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「お前を殺してオレも死ぬ。お前の家族も殺してやる」
事件の被害者となる竹下香織さん(当時23)の家庭は、両親が不仲でギクシャクしていた。それというのも、父親の浮気が発覚したからだ。毎日のように「離婚」について話し合いをしている両親の姿を見るのがイヤで、香織さんは家出同然の生活を送り、なかなか家に帰りたがらなかった。そんなときに知り合ったのが関龍次(同26)だった。香織さんが行きつけにしていた居酒屋で「ダーツのプロ」として紹介された。香織さんは関の神業のような技術に驚愕した。
関と何度も顔を合わせるうちに親しくなり、1カ月後には交際に発展。家に帰りたくないという悩みを相談すると、「じゃあ、一緒に暮らそう」と同棲を持ちかけられた。香織さんは何度も関の家に泊まった。
だが、夏になると、エアコンのない関の家は寝苦しくなった。そこで香織さんは「それなら私の家に住めばいい」と提案し、家族に「彼氏」として紹介した。
「彼の家のエアコンが壊れちゃったの。車の中で寝かせるのはかわいそうだから、自宅に泊めてあげてほしい。すぐ出て行くから」
両親はただでさえ家に寄りつかない娘が、反対すると本当に出て行ってしまうのではないかと思い、受け入れることにした。こうして香織さんと両親、兄、祖母が同居する自宅に関が入り込むことになった。
関は「2人で暮らすための金を作る」と言って、真面目に働いていた。そんな娘カップルを見ていて、両親も自分たちの生活を見直し、離婚話を撤回した。
すべてがうまくいっていたはずなのに、香織さんは関との付き合いに、だんだんと「疲れ」を感じるようになった。
「お父さん、関と結婚したらどう思う?」
「お前が幸せならいいんじゃないか」
「でも、けっこう束縛が強いんだよね。友達と遊びに行くと怒るし、大学のサークルに参加しても怒るし」
「それは社会人になったら困るだろうな。そのあたりのことはよく考えた方がいいぞ」
「分かった」
香織さんは次の行動が早かった。いきなり、関に別れ話を切り出したのだ。というのも、アルバイト先に気になる男性が現れたという事情もあった。
関は自宅から追い出され、翌日から泣きながら何度も電話をかけてくるようになった。
「やり直したい。お前がいない人生なんて、生きている意味がない。悪いところは直す。こうなったら、お前の写真をユーチューブに上げながら死んでいく…」
それでも香織さんが無視していると、関はだんだん脅迫的なことを言うようになった。
「お前を殺してオレも死ぬ。お前の家族も殺してやる。お前が誰かと幸せになることを考えるのはしんどい」