息子への仕送りのため、倹約生活に精を出すAさん
中部地方のとある町で働くAさん(52歳)。年収は約490万円、妻もパートで年収250万円ほど。決して余裕のある家庭ではありませんが、二人には一人息子がおり、その教育だけは最優先にしてきました。
息子は、東京の私立大学に進学。地元には希望する学部がなく、「東京に行かせるしかない」というのが夫婦の決断でした。
仕送りは月9万円。そう簡単に出せる金額ではありません。Aさん自身、お小遣いを月1万5,000円まで減らし、息子に送るお金を工面していました。足りない分は貸与型の奨学金(月5万円)と本人のアルバイトで賄うよう伝えていたといいます。
「私も妻も、本当に節約の毎日ですよ。給料が増える見込みもないし、自分たちの老後資金も少しずつ貯めなきゃいけない。子どもが一人でこれだけかかるなら、二人いたらどうなってたか……」
息子が帰省するのは年に一度。帰ってきても地元の友人と遊びに出かけ、家でゆっくり話す時間もほとんどありませんでした。
「ちゃんと頑張ってるのか?」と聞けば、「うん」と短く返事をするだけ。それでも、元気そうならそれでいい、男の子なんてそんなものだろう――そう信じて送り出していました。
そして、大学4年生になった息子から就職先が決まったという報告が。Aさん夫婦はホッとしたといいます。
「やっと仕送り生活から解放される」
「これからは自分たちの老後に目を向けられる」
そう安堵していた2月のある日、衝撃の連絡が届きました。
息子から届いた1通のLINE…Aさんの落胆と後悔
「単位が足りなくて卒業できなくなりました」
思わずスマホを落としそうになったというAさん。信じられない内容に呆然とし、すぐ息子に電話をかけました。最初は「バイトが忙しくて」と言っていた息子ですが、話を深掘りするうちに、真相が明らかになっていきました。
「オンラインの授業もあって、ついサボりがちになってしまった」
「卒論も通らなかった」
東京で一人暮らしをする中で、つい気が緩んでしまったのだといいます。Aさんは、息子の甘さに怒りを感じると同時に、親としての自分にも反省を感じたといいます。
「私たちがどれだけ苦労して、息子を大学に通わせていたか。それを分かっていなかったんでしょうね。でも、それは私たちが話さなかったからかもしれない。心配をかけたくなくて、つい何も言わずにやってしまった。でもそれじゃ、伝わらないですよね」
家計について話をすると、息子は深く反省した様子で、「絶対に1年後にはいいところに就職するから」と頭を下げたといいます。しかし、Aさん夫妻にとって1年間の仕送り延長は決して軽い負担ではありません。
「奨学金はもう出ないし、仕送りを続ければ、私たちの老後資金はますます削られる。それでも、ギリギリまでは支えるつもりです」
結局、仕送りは継続。足りない生活費は、アルバイトで賄うよう厳しく言い渡したそうです。