雪が降りしきる2月の朝、岐阜市の長良東小の校門前で、校長の中村有希(なかむら・ゆうき)さんが登校してくる子どもを出迎えていた。「おはよう、傘はどうしたの?」「家に忘れちゃった」
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中村さんは42歳、文部科学省の現役キャリア官僚だ。数年前に岐阜県教育委員会に出向し、そこからさらに校長になった。文科省官僚は一定の年次になると、より教育現場に近い都道府県や市町村の教育委員会に数年間出向し、その多くが教育長や課長になる。
教育関連の取材をしていても、官僚で小学校長になった人は聞いたことがない。念のため文科省に確認してみると「現役官僚が公立小校長になるのはおそらく初めて」という回答が返ってきた。
キャリア官僚が校長先生に。彼は今、どんなことを考え、何に取り組んでいるのか。話を聞いた。(共同通信=河村紀子 年齢や学年、肩書は当時)
▽“岐阜の先生”
長良東小は全校児童約680人。46ある市立小の中でも有数の大きさだが、中村さんは一人一人の名前を呼び、声をかける。子どもたちや一緒に校門に立つ教員との会話に耳をそばだてると、方言を自然と使いこなしていた。すっかり“岐阜の先生”になっているように見えた。
取材のため案内された校長室の扉は、誰でも入りやすいように常に開放。実際、休み時間や放課後に子ども達が遊びに来たり、勉強をしに来たりすることもあるという。
▽先生を支える側に
中村さんは宮城県出身で、小中高とも地元の公立高で学んだ。「小中高の12年間で担任だった先生のことは、今でも全員覚えている。本当に良い先生たちに恵まれた」と振り返る。
教員になることも考えた。そのとき頭に浮かんだのは、自分が子どもの時に接した教員の存在。「全国にこういう先生はたくさんいる。一生懸命やってくれる先生を支える側の仕事に就きたい」と国家公務員を志し、2008年に文科省に入省した。
入省後は主に小中高の教育行政に携わった。教育委員会制度改革などに関わった後、2021年に岐阜県教育委員会に出向した。
岐阜県教委では教職員課長や高校教育課長を歴任。喫緊の課題となっている教員不足を解消するため、県内の大学と市町村教委が連携する取り組みを立ち上げた。そんな中で、岐阜市立小の校長はどうか、という打診を受けた。