(※本編は後編です。このインタビューは3月に実施しました)
『ママはテンパリスト』『海月姫』『東京タラレバ娘』など、数々のヒット作を生み出してきた漫画家・東村アキコ。その彼女が「泣きながら描いた」と語る自伝的コミック『かくかくしかじか』が、ついに映画化された。
【写真13枚】透明感あふれる永野芽郁の撮りおろしはこちら。映画のワンシーンもお届け
描かれるのは、漫画家を目指すぐうたら高校生・明子と、スパルタ絵画教師・日高先生との9年間の関係。恩師との出会い、すれ違い、そして別れ――。
それは、夢を追う痛みと愛情に満ちた、“描けなかった記憶”の再生でもある。
原作に深く心を寄せた東村は、映画の脚本を自ら手がけた。主演は永野芽郁、恩師役には大泉洋。東村が「この人たちにしか託せない」と語ったほどの信頼がにじむキャスティングだ。
主演の永野に撮影を振り返ってもらった。
前編:『永野芽郁「終わらないものはない」と考える強さ』)
■「自分の過去を、誰かに演じられたら」
永野が最初に感じたのは、実在の人物を演じることへの“ざらりとした不安”だった。
「もし自分の過去を誰かに演じられたら? って考えると、きっと複雑だと思ったんです。
だから、先生の人生を“壊してしまうかもしれない”っていう怖さは、ずっと心のどこかにありました」
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誰かの“実人生”を演じるということは、その人の記憶を預かることでもある。だからこそ、プレッシャーは大きかった。
しかし、現場には原作者・東村アキコ本人がいた。永野にとって、何よりの心の支えだった。
「現場では、“このときはこういう気持ちだったよ”って、すごく具体的に教えてくださりました。カラオケのシーンでは“ノリ方”まで(笑)。迷ったときにすぐ聞けて、一緒に役をつくっている感覚がありました」
“演じる”というより、“なぞる”というような時間。そこには、記憶を壊さないための丁寧な手つきと、信頼の空気が流れていた。
■「怖いけど、大切な人」――記憶が重なったとき
映画は、明子(=若き日の東村)が絵画教室に入るところから始まる。