昨年12月、自民党、公明党、国民民主党の幹事長間で合意したはずのガソリンの暫定税率の廃止。しかし、なぜか国は10円のガソリン価格引き下げを発表……。のらりくらりと暫定税率廃止を回避しているように見える。その背景には何が?
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■ガソリン税ナシの電気自動車
大ブーイングの嵐!
現在、ニッポンは物価の伸びに賃上げがいっこうに追いつかず、実質賃金は3年連続でマイナスとなっている。追い打ちをかけるように、国が備蓄米を放出してもコメの値上がりに歯止めがかからず庶民の暮らしを圧迫している。
そんな中、石破茂首相は今月22日からガソリン価格を1L当たり10円引き下げるとドヤ顔で発表した。しかし、レギュラーガソリンが200円を軽く突破している地域も多く、「10円」という金額は大きな波紋を呼んだ。
実際、発表直後のネット上には、《10円なんて焼け石に水》《地方はクルマがないと生活できん。10円は理解に苦しむ》《暫定税率の廃止はよ!》というような怨嗟(えんさ)の声が渦巻いていた。
今回のガソリン価格の引き下げについて、車中泊で日本一周をした漫画家の小田原ドラゴン氏はこう憤る。
「なんか逆にバカにされている気がして腹立たしいですね。ガソリンの値下げ効果はもちろんないと思います」
自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏も言う。
「ガソリンの値下げ効果は限定的でしょう。今回の値下げは夏の参議院選挙への対応策という見方もあります」
一方、自動車評論家の国沢光宏氏の見立ては異なる。
「現状だと原油価格は下がっている。しかも円高なので、今後ガソリン価格は下がる可能性もあるのでは」
それにしても、なぜ国はガソリンの暫定税率を即座に手放さないのか。桃田氏が語る。
「国というより政党間での政策に対する綱引きが大きく影響しています。昨年末、自民党、公明党、国民民主党で、ガソリンの暫定税率の廃止に向けた議論のたたき台はできていたはず。その後、野党間での意見調整などもありましたから、与党は落としどころを探っている状況でしょう」
与党の狙いはなんなのか。
「今年度の税制改正大綱で、自動車の車体課税の抜本見直しが、政府方針として決定済み。その上で、与党としては車体課税の見直しとガソリンの暫定税率廃止をパッケージとして行ないたいようです」
元通商産業省(現経済産業省)官僚で、内閣官房参与も務めた慶應義塾大学大学院教授の岸博幸氏にも、国がガソリンの暫定税率を廃止しない理由を聞いてみた。
「暫定税率を早く廃止するのは当然ですが、難しいのはガソリンの暫定税率だけを廃止すればいいのかという問題です。ご存じのように自動車にはいろいろな税金が設定されていますが、実はその中で一番おかしいのはEV(電気自動車)にガソリン税がかけられていない点です」
もともとガソリンの暫定税率は、1974年に道路の建設や整備などを目的とした道路財源として、ガソリン税に上乗せされる形で暫定的に導入された。極端な話をすると、日本の道路をクルマやバイクが走るための、いわば”交通手形”の代わりが、このガソリン税なのだ。しかし、EVはそれを払っていない。
「道路の損傷、傷み具合というのは、自動車の車重の4乗に比例するというデータがあります。当然、巨大なバッテリーを積むEVのほうがガソリン車より車重は重い。しかし、EVにはガソリン税がかかっていない。このガソリン車とEVのアンフェアな状況は改善する必要があります」
桃田氏もこううなずく。
「ガソリン税と呼ばれる、燃料関連の各種税の体系は、EVなどの電動車普及が進む中で、当然見直されるべき」
■問題山積の自動車の税金
ほかにも自動車にかかる税金には問題が山積していると岸氏は指摘する。