世の中には2通りの人しかいない。「子のある人」と「子のない人」。が、子がある理由も、ない理由もさまざまなのにもかかわらず、それについて互いに感想でも疑問でも意見でもざっくばらんに語らうことはない。いや、しないほうがいいのかもしれない。
どんな生き方を選ぼうと、どこにたどり着いていようと、それぞれの選択やあり方は尊重されていいはずーー。
阿古真理氏が多様な角度から「産む・産まない」「持つ・持たない」論に迫る本連載。9回目の今回は、子育て中の人への職場での配慮に対して、不満や違和感を持つ人が皮肉を込めて使うネットスラング「子持ち様」の問題について取り上げる。
2023年11月、SNSで同僚の「子持ち様」が子どもの熱で「また」急に休んだ、という不満をつぶやいた投稿から賛否両論が巻き起こった「子持ち様」論争。1年半の間に、新たな動きも目立ち始めている。
そこで、今回は改めて、この問題の背景と今後について考えてみたい。まず、仕事を持つ人たちに論争に関する見解を聞いてみた。
■同僚たちの正直な思い
教育関係の職場で働く26歳のMさんは、昨年結婚したばかり。独身時代に働いていた保育園での経験を振り返り、「お子さんを授かった先輩が、子どもが熱を出すと休むんです。私もいつか子どもを持ちたいし、仕方ないとは思ったんですが、保育園の仕事はそもそも給料が低いので、何か腑(ふ)に落ちなかったです」と話す。
コンサルタント会社で働く28歳のシングル女性・Rさんは、「正直に言えば、『子どもが熱を出したから帰ります』と同僚に言われたら、絶対に腹が立つとは思うんですよ。でもそれは、そんなふうに感じさせる環境を作る会社がよくないと思います」という。
一方、「子どもを産み育てていること自体に、尊敬の念が私にはあります。そういう人が気兼ねなく帰れる職場であってほしい」と話すのは、メディア関連の会社で働く30歳の既婚女性、Tさんだ。