経済学者・成田悠輔氏がゲストと「 聞かれちゃいけない話 」をする対談連載。第4回目のゲストは、横尾忠則氏です。88歳の横尾氏が、成田氏に語った人生哲学とは……。
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「僕はとことん考えないんです」
横尾 今日は成田さんと経済とかお金の話をしなきゃいけないんだけど、僕はお金に関しては何も語る資格がないような気もするんですよね。僕は財布を持ってないんですよ。いつもこれが僕のあれで(と、片方のポケットからくしゃくしゃになったお札や紙の束を取り出す)。あと小銭はこっち(反対側のポケット)へ……領収書とか、もう使えないテレホンカードもあったり。
成田 テレホンカードなんてひさしぶりに見ました(笑)。何年持ち歩いてらっしゃるんですか。
横尾 もう10年も20年も持ち歩いてますね。タクシーに乗って、いざお金を払おうと思ってポケットから出したら、足りなくて「運転手さん、悪いけど僕が乗ったところが僕の家だから、後で取りに行ってくれる?」とかね。
成田 「横尾忠則さん、無賃乗車で逮捕」っていうパフォーマンス見出しアートを(笑)。でも、そういうお金と直交する姿勢がアーティストとしては自然な気もします。アートって本来は生きたり感じたり考えたりすることそのものなわけで、お金とか値段とかどうでもいいじゃないですか。だけど現代のアートは投資商品化して、値段で順位がつくようになってます。アートの金融化についてはどう思われますか?
横尾 いやー、全然わかりませんね。古いつきあいの画廊での個展で、「絵を買いたい」という方もたまにいるんです。ただ「横尾さんの絵が好きだから家に飾っておきます」と言ってたのに、何年か後に「あの絵を展覧会に出したいんだけれども」と打診すると、「別のコレクターに売っちゃいました」とか海外のオークションに出したり。だから今は、絵を販売することはほとんどしないんです。
成田 時代に逆行してますね。
横尾 完全に逆行してます。僕の作品自体も逆行してます。今はコンセプチュアルアート全盛の時代で、考えて考えてとことん考え抜いて作品を作っていくのが普通だけど、僕はとことん考えないんです。
絵というと学芸員も含めて「何が描いてあるんですか?」と主題ばかり気にするんですけど、僕は「何を描くか」はどうでもよくて、「いかに描くか」に興味があるんです。自分でも何を描いているかわからないから描けるんですよ。ひたすら考え抜かない状態で、身体的なものだけになった時に絵が描ける。
成田 頭が空っぽのほうがいい?
横尾 お金のこともそうですけど、みんな何かにつけて考えすぎるから悩む。僕は極力考えないことが僕の生き方だと思っていますから。