人は、いつ、どんなきっかけで「嫉妬」を感じるのか。幼い子どもが“きょうだい”に対して嫉妬することを例に、哲学者の岸見一郎氏が解説する。※本稿は、岸見一郎『妬まずに生きる』(祥伝社)の一部を抜粋・編集したものです。
● 嫉妬をしている人たちが 他者に敵対心を抱く理由
なぜ、嫉妬する人は他者に対して敵対的になったのか、他のきょうだいよりも優ろうとしたのか(1*)。アドラー(アルフレッド・アドラー)は次のように説明します。
「冷遇されていると感じることから他の形の野心が発達する。これが嫉妬であり、しばしば人間に生涯にわたってまつわりつくことになる」(『性格の心理学』)
なぜ冷遇されていると感じたのでしょうか。生まれてすぐに自分が親から冷遇されていると感じ、嫉妬する子どもはいません。そのように感じ嫉妬するようになったのは、「王座転落」(dethronement)したからです。
(1*)…編集部注/オーストリアの精神科医、アルフレッド・アドラーは、著書『性格の心理学』のなかで「(嫉妬は)愛の関係における嫉妬を意味しているだけでなく、他のすべての人間関係においても見ることができる。とりわけ、子ども時代には、きょうだいが、他のきょうだいよりも優るために、野心と共に、このような嫉妬も自らの内に発達させ、そうすることで敵対的で闘争的な立場を示す」と綴っている。
「このような〔嫉妬する〕人のライフスタイル(2*)を見れば、権利を奪われたという感覚を見出すことができる。実際、嫉妬深い人に会えば、いつでもその人の過去を振り返り、その人は、かつて王座から転落したことがあり、今再び王座から転落するのではないかと予期しているのではないかと見てみるといいだろう」(アルフレッド・アドラー『個人心理学講義』)
第一子は、弟や妹が生まれる前は自分が親に愛されていることを疑ってはいなかったでしょう。ところが、弟や妹が生まれると、それまで自分だけに向けられていた親の注目、関心、愛情が、自分ではなく、後から生まれてきた弟や妹に向けられ、自分がもはや王子、王女ではなくなったと思うのです。
(2*)…編集部注/アドラーは性格とほぼ同じ意味で「ライフスタイル」という言葉を用いる
● 「王座転落」を体験した ある男のエピソード
第一子だけが王座から転落するわけではありません。どのきょうだい順位に生まれた子どもも、初めは親から十分世話をされ愛されますが、後から弟や妹が生まれると、第一子と同じような経験をすることになります。
アドラーは次のような事例をあげています。
「ある男性は、母親が彼と弟を市場へ連れて行ってくれたことを話すかもしれない。これだけで十分である。このエピソードを手がかりにして、彼のライフスタイルを見出すことができる。彼は自分自身と弟を描いている。それゆえ、彼にとって弟を持つということが重要だったに違いないことがわかる」(『個人心理学講義』)
この男性は市場に行った時のことを話しています。兄の早期回想(子ども時代の記憶)に弟が出てくれば、その弟との「競争」の話が出てくることが予想できます。母親も登場しているので、この競争が母親と関係することも予想できます。
「さらに回想を続ければ、その日、突然雨が降り出したというような状況を語るかもしれない。母親は最初彼を抱いていたが、弟を見ると、彼を降ろして、弟を抱き上げた。ここから彼のライフスタイルを描くことができる」(前掲書)
この状況で、母親が兄ではなく、弟を抱き上げるのは当然でしょう。しかし、兄はそれを許せません。雨が降る前は自分を抱いていたのに、なぜ母親が自分を降ろし、弟を抱き上げたのか理解できないのです。