【香港=藤本欣也】今回の香港区議会選は反政府デモの高まりを受け、史上最多の1090人が立候補している。「恩恵を受けてきた香港の力になりたい」。未曾有の危機に直面した香港を救うため立ち上がった日本人がいた。
「香港の価値を守りましょう!」
23日、高級住宅街で候補者番号を示す1番の紙を掲げながら、行き交う車に支持を呼び掛けていたのは、賣間(うるま)国信さん(46)だ。区議会選は、香港の永住権を持っていれば誰でも投票と立候補ができる。
父親は北京出身の中国人で母親が日本人。父親の勤務先の香港で生まれ育った。国籍は日本で日本語もできるが、香港メディアの取材には、香港で一般に使われる広東語で答えていた。
「選挙活動中に時々、政府高官とみられる男から罵声を浴びせられますよ」
出馬したのは、観光地で知られるビクトリア・ピークのある「山頂選挙区」。高級住宅街で政府高官も多数住んでいる。対立候補は親政府・親中派の現職だ。
「勝つのが難しいのは分かっています」。彼を突き動かしたのは「香港人」としての意識の芽生えだ。
カナダと米国の大学で経済を学んだ後、香港で就職。金融コンサルタントをしていた今年6月、「逃亡犯条例」改正問題に端を発した大規模な反政府デモが起きた。
「政府の圧力があっても、勇気を出して民主と自由のために声を上げる香港人を見てびっくりしました」
自分のことを香港人と考えたことはなかった。しかし香港の恩恵を受けて育ってきたことに思い至り、「自分も香港人として何かをしなければ」と考えた。
そんなとき、民主派組織から、民主派が誰も立候補していない山頂選挙区からの出馬を打診された。
「香港の民主、自由は中国の圧力にさらされています。香港の次は台湾、そして日本にも影響が及ぶかもしれません。日本の人々にも考えてほしい」
最も感動したのは、数十万人が参加した8月下旬の「人間の鎖」の抗議活動だ。鎖の道が香港を超えて続いていくと信じている。