恣意的前提が招くルート選定の歪み
2025年3月25日、日本経済新聞に全面広告が掲載された。出稿したのは、福井県北陸新幹線建設促進同盟会(事務局:福井県未来創造部新幹線・交通まちづくり局新幹線建設推進課)である。
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広告は、北陸新幹線の小浜・京都ルートによる建設の利点を訴える内容だった。あわせて、米原ルートの問題点を指摘する構成となっていた。紙面を丸ごと使った大々的な展開だった。
「北陸新幹線、敦賀乗りかえがなくなるって、ホンマですか?本当です!」
という見出しを掲げ、小浜・京都ルートのメリットを強調していた。この主張には一定の妥当性がある。しかし、米原ルートについての記述には疑問が残る。国の試算や検討内容を参照しているが、前提条件の設定にはやや恣意的な部分も見受けられる。それが結果として、米原ルートを相対的に不利に見せているようにも読み取れる。
この広告のどこに問題があるのか。福井県が米原ルートに対して挙げている五つの主張をもとに、検証していく。
統一進まぬ規格の矛盾
まず、乗り換えが続く点について、広告ではこう主張している。「米原で東海道新幹線との乗り換えが発生するため、敦賀乗り換えが米原乗り換えに変わるだけです」と記されている。
この記述は、「第5回 北陸新幹線事業推進調査に関する連絡会議 国土交通省資料」からの引用とされている。国が米原ルートでの直通運転を不可とし、乗り入れができないとする主な理由は、以下の3点である。
1.JR東海からリニアができるまで線路容量的に不可能と言われている
2.運行管理や信号等のシステムの違い
3.車両と脱線防止ガードの規格の違い
どれも国家的プロジェクトであるにもかかわらず、規格統一に向けた指導や支援がほとんど見られない。どうすれば課題を乗り越えられるかという検討すら十分に行われていない。そんな国家の姿勢には、ただ呆れるばかりだ。
米原ルートの課題、解決策は10kmの複々線化
「1」の線路容量については、現在のように敦賀~米原間のみの整備を前提としたプランでは、東海道新幹線への乗り入れは不可能である。にもかかわらず、東海道新幹線側の線路改良については、なぜか議論がなされていない。
合流させる計画である以上、合流先の線路について検討しないのは本来おかしい。東海道新幹線の線路容量は、回送列車も含めて1時間に最大20本が限界とされている。しかし実際には、米原から新大阪駅の手前10kmの区間では、1時間あたり最大15本しか走っていない。つまり、この区間には1時間あたり5本分のダイヤに余裕がある。
この最後の10kmには鳥飼車両基地があり、そこから新大阪までの回送列車用に5本分の枠が確保されている。であれば、図にあるように、この10kmを複々線化すれば、北陸新幹線は1時間あたり最大5本、余裕をもって4本まで直通できると考えられる。
都市部で10kmの線増はたしかにハードルが高い。だが、小浜ルートの建設費が5兆円にのぼることを考えれば、数千億円かけてもなお合理的な選択ではないか。
加えて、現在もこの区間ではお盆時期などに列車渋滞が発生している。リニアが開通しても、そこに北陸新幹線の直通列車が加われば、本数は現在と大差ない。遅延対策としても、リニア開通後を見据えた投資として無駄にはならないはずだ。