NHKドラマ10で放送中の『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合、火曜午後10時)が、NHKプラスでの同時・見逃し配信において、2020年4月以降に配信された全ドラマ(大河ドラマ、連続テレビ小説を除く)の中で最多視聴数を記録するなど、静かに、しかし着実に注目を集めている。
【写真】多くの共感を集めるドラマ『しあわせは食べて寝て待て』【5点】
水凪トリ氏の同名漫画を原作とする本作は、膠原病を患ったことをきっかけに、週4日勤務のパートとして働きながら団地で質素に暮らす38歳の独身女性・麦巻さとこ(桜井ユキ)が、近隣住民との交流や薬膳を通じて、小さな幸せを見つけていく姿を描いたヒューマンドラマだ。
作中に流れる緩やかな空気感が心地よく、多くの視聴者を惹きつけている本作。その制作統括を務める小松昌代氏と、チーフ演出を担当する中野亮平氏に、ドラマ化の背景や作品独自の温かみの描き方について話を聞いた。
まずドラマ化の経緯について尋ねると、中野氏がもともと原作漫画のファンだったことがきっかけだったという。
「同じシーンでも読むたびに感動するポイントが変わるんです。その時々のライフステージや心身の状態によって受け取り方が変化する。この作品は『どんな時でも自分に寄り添ってくれる存在だ』と感じたので、この世界観をもっと多くの人に届けたいと思い、ドラマ化に取り組みました」
とはいえ、同じようにドラマ化を望むテレビ局もあったはず。その中でNHKがドラマ化を実現できた理由はなんだろうか。
「『薬膳で暮らしが豊かになります』というようなハウツー系にはしたくなかったし、ただのほっこり系にもしたくなかった。薬膳も自分がいいと思うから始めていて、そうやって自分のことはすべてさとこが自ら選んでいる。『幸せを自分で選び取っていく』という、その一歩一歩を丁寧に描くヒューマンドラマにしたい、という思いに共感してもらえたのかもしれません」
本作は薬膳の魅力をプレゼンする“情報系のドラマ”でも、グルメ系ドラマでも、ほっこりドラマでもない。それらの要素も含みつつ、あくまでさとこの日常、もとい選択が物語の軸として描かれている。小松氏や中野氏の描こうとした世界観が、原作者や出版社にしっかり伝わったからこそ、今回のドラマ化につながったのだろう。