「質」を犠牲にする報道機関
世界の報道の自由が、調査開始以来の「困難な状況」に陥っている──国際NGO「国境なき記者団(RSF)」は5月2日に出された2025年の「報道の自由度ランキング」の発表に際し、そう報告した。
【画像】調査開始以来の「最低水準」になった世界の報道の自由度
同ランキングは世界180の国・地域に対し、報道の自由のレベルを政治、経済、法的枠組みなどの5つの項目別に点数をつけて総合点を出したものだ。さらにその結果に基づいてそれぞれの国・地域が、「よい」「満足できる」「問題あり」「困難」「非常に深刻」の5段階にランク付けされている。
2025年の発表によると、世界人口の半分以上が「非常に深刻」な状況にある国・地域に居住している。また、評価対象国の平均スコアが55点未満に下がり、これまでにない低い水準になったという。
報道の自由が脅かされている主な要因は、メディアの財政難だ。
質の高い報道を継続するには多くの資金と人的リソースが必要だが、調査対象国のうち160ヵ国の報道機関が経済的に困難な状況にあり、報道の独立性と生き残りの狭間で葛藤しているという。
その結果、多くの報道機関が「質」を犠牲にして、より多くの読者を獲得できる内容を取り上げる傾向にある。こうした状況は、政府や当局による搾取を誘発するとRSFは警鐘を鳴らす。
安倍政権下で「自己検閲」が常態化
では、日本の状況はどうか。日本は66位と2024年より4つ順位を上げたものの、G7では9年連続の最下位で下から二つめの「困難」のカテゴリに分類されている。その理由としてRSFは、日本の大手メディアの記者たちの間に蔓延する「自己検閲」をあげている。
日本では、政府や企業が大手メディアに日常的に圧力をかけており、汚職や性被害、保健衛生や公害といったセンシティブな問題について、記者たちは自ら報道を自粛していると同組織は指摘する。その一因としてRSFが着目しているのが、「記者クラブ制度」だ。
同クラブは、各官公庁や警察署といった公的機関などに設けられた組織で、主要な新聞社や通信社、放送局などに所属している記者以外は加盟できない。
日本の大手メディアの記者は、政府や当局を批判して記者クラブの加盟資格を剥奪され、情報源を失うことを恐れている。その結果、メディア内で自己検閲が広がり、「権力の番犬」としての役割が損なわれているとRSFは分析する。
これについて香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」は読売新聞初の外国人記者であるジェイク・エーデルスタインに、取材している。
エーデルスタインは、安倍晋三元首相の時代に「政府関係者ともめたくない」という日本のメディアの姿勢に拍車がかかったと話す。彼によれば、安倍政権は自民党に批判的な報道をするメディアに圧力をかけ、さらにいくつかの放送局に対しては、政権に歯向かう発言をする出演者を外すよう説得したという。
「安倍首相の圧政によって、日本のメディアでは自己検閲が常態化した」とエーデルスタインは述べている。
こうした姿勢は、中居正広が元フジテレビアナウンサーに性加害をした問題においても見られた。当初この件を「女性問題」と呼んで矮小化することで、日本のメディアは中居の問題隠蔽に加担したとエーデルスタインは考えている。
Courrier Japon