人生100年時代を迎える今、目の健康への関心は高まっています。加齢による目の病気に加え、スマートフォンやパソコンの長時間使用による目の不調を感じる人も増加傾向にあります。こうした中、食生活、運動、睡眠といった日々の生活習慣が目の健康、特に目の病気の発症や進行に深く関わっている可能性が、近年注目されています。栃木県で多くの目の病気患者を診ている山口康三医師も、治療において生活習慣の改善を重視しており、「目の病気も生活習慣病と捉え、根本からの改善を目指す」という視点を持っています。本記事では、目と生活習慣の知られざる関係について、最近の研究結果をもとに探ります。
目と生活習慣病の関係性
長らく、眼科学や医学研究の分野では、目の健康と生活習慣の直接的な関連性はあまり深く研究されてきませんでした。しかし、近年の研究により、生活習慣が目の状態に影響を与えるメカニズムが明らかになりつつあります。特に、緑内障、白内障、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、ドライアイなど、様々な目の病気のリスクや進行に、日々の生活習慣が関わっている可能性が指摘されています。
山口医師のように、患者さんの生活習慣に目を向け、食事指導や運動のアドバイスなども含めた総合的なアプローチを行う医師が増えてきていることは、この新しい視点の重要性を示しています。
最新研究が示す生活習慣と目の病気
目と生活習慣の関係については、国際的にも国内でも、様々な角度からの研究が進められています。ここでは、特に注目すべき研究事例をいくつかご紹介します。
カロリー制限と緑内障リスクに関する研究
2017年の日本眼科学会で発表された、東京都医学総合研究所の研究チームによる「カロリー制限と緑内障」に関する研究は、この分野における画期的な成果の一つです。この研究では、遺伝的に正常な眼圧でも緑内障を発症するように開発された特殊なマウス(正常眼圧緑内障マウス)が用いられました。
実験では、このマウスに対し、通常通りの食事を与えるグループと、1日おきに絶食させる(カロリー制限を行う)グループに分け、その後の目の状態を比較しました。その結果、驚くべきことに、カロリー制限を行ったグループのマウスでは、網膜の神経細胞の死が有意に抑制され、緑内障の発症が見られなかったのです。この研究結果は、カロリー制限が単に生活習慣病(糖尿病や高血圧など)の予防につながるだけでなく、直接的に緑内障のような目の病気の予防にも有効である可能性を示唆しています。ヒトへの応用には更なる研究が必要ですが、食事習慣の見直しが目の健康維持に寄与することを示唆する重要な発見です。
目の健康維持に不可欠な生活習慣(食事、運動、睡眠など)を示す画像。目の病気予防の観点から見たライフスタイル改善のイメージ。
運動習慣と眼圧への影響
同じく2017年の日本眼科学会では、運動習慣が眼圧に与える影響に関する研究発表も行われました。眼圧は緑内障の主要なリスク因子の一つであり、眼圧が高い状態が続くと視神経が圧迫され、視野欠損を引き起こす可能性があります。
この研究発表の詳細(具体的な運動内容や効果の程度など)は様々ですが、定期的な運動が眼圧を適切に保つことに役立つ可能性が示されました。運動による血行促進効果や全身の健康状態改善が、目の組織への栄養供給や老廃物排出を助け、結果として眼圧の安定につながるというメカニズムが考えられます。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、全身の血流改善に効果があることが知られており、目の健康にとっても良い影響が期待されます。
まとめ:生活習慣の見直しで目を守る
これまで加齢や遺伝的な要因が大きいと考えられがちだった目の病気ですが、近年の研究により、日々の生活習慣がその発症や進行に深く関わっていることが明らかになりつつあります。食事、運動、睡眠といった基本的な生活習慣を見直すことが、緑内障や白内障をはじめとする目の病気の予防や、進行を遅らせるための有効な手段となり得る可能性が示されています。
バランスの取れた食事、適度な運動、質の高い睡眠は、全身の健康を維持する上で不可欠ですが、これからは目の健康を守るためにも、これらの生活習慣を意識的に整えることが重要です。専門医の指導のもと、自身のライフスタイルを改善していくことが、人生100年時代をクリアな視界で生きるための一歩となるでしょう。
参考文献
- 山口康三著『緑内障・白内障は血流の改善でよくなる 黄斑変性・糖尿病網膜症・ドライアイにも効果』より一部抜粋
- 2017年 日本眼科学会総会 発表演題(東京都医学総合研究所ほか研究チームによる)