アメリカの連邦地裁は23日、ハーヴァード大学の留学生受け入れ資格を停止するというトランプ政権の措置を、一時的に差し止める仮処分命令を出した。ハーヴァード大はこの日、資格停止をめぐって政府を提訴していた。ホワイトハウスとアメリカ有数の名門大学との対立がさらに激化したかっこうだ。
ハーヴァード大は、政権が22日に発表した留学の受け入れ禁止措置について、「法律および言論の自由に対する明白な違反だ」と主張している。
トランプ政権は、同大学が反ユダヤ主義への対策を十分に講じておらず、採用および入学の方針にも問題があると非難している。大学側はこれに強く反論している。
マサチューセッツ州の連邦地裁のアリソン・バローズ判事は23日、簡潔な判決文で仮処分命令を出し、国土安全保障省が前日に下した措置の効力を一時停止した。
この措置は、ハーヴァード大学に対し、外国人留学生を管理する政府のデータベース「学生・交流訪問者プログラム(SEVP)」へのアクセス権を取り消すというものだった。
次回の審理は、5月29日にボストンで行われる予定。
ハーヴァード大は訴状の中で、「政府はたった一筆で、ハーヴァードの学生の4分の1を構成する留学生を抹消しようとしている。留学生は大学とその使命に大きく貢献している」と主張した。
アラン・ガーバー学長は書簡の中で、「この違法かつ不当な措置を強く非難する」と述べた。
また、「今回の認可取り消しは、我々が学問の独立性を守り、連邦政府によるカリキュラム、学科、学生団体への違法な介入に屈しなかったことに対する報復の一環だ」と指摘した。
これに対し、ホワイトハウスのアビゲイル・ジャクソン副報道官は、「ハーヴァード大学が、反米的・反ユダヤ的・テロ擁護的な扇動者を学内から排除することを、これと同じくらい重視していたら、そもそもこのような事態にはならなかったはずだ」と述べた。
仮処分命令が出された後、ジャクソン氏は担当判事について「リベラルな政治的意図を持っている」と非難。「選挙で選ばれていない判事が、トランプ政権による移民政策および国家安全保障政策の正当な行使を妨げる権利などない」と主張した。
■トランプ政権と超エリート大学の対立
ハーヴァード大には現在、約6800人の留学生が在籍しており、今年度の全学生の27%以上を占めている。
そのうち5人に1人は中国出身で、その他にもカナダ、インド、韓国、イギリスからの学生が多くを占めている。現在在籍している留学生には、ベルギーの王位継承第1位のエリザベート王太女も含まれている。
外国人学生の排除は、大学の財務に大きな打撃を与える可能性がある。専門家によると、留学生は授業料を全額支払う傾向が高く、結果的にアメリカ人学生への奨学金を支える役割を果たしているという。
ハーヴァード大によると、来年度の学部授業料は、諸費用や寮費、教材費、食費、健康保険などを除いて5万9320ドル(約850万円)に達する見込み。経済的支援を受けない場合、年間の総費用は10万ドル(約1400万円)を大きく超えるのが一般的だ。
トランプ政権はハーヴァード大以外の名門大学にも矛先を向けている。親パレスチナ派の活動家への対応を強化すべきだと主張するだけでなく、保守的な見解に対して差別的であるとも非難している。
ドナルド・トランプ大統領は23日、ホワイトハウスの大統領執務室からの発言で、「ハーヴァードはやり方を変えなければならない」と述べ、他の大学に対しても措置を検討していることを示唆した。
ホワイトハウスは4月、ハーヴァード大への連邦資金22億ドルの支出を凍結。トランプ氏は同大学の非課税資格の剥奪も示唆している。非課税資格は、アメリカの教育機関に一般的に認められている。
この資金凍結を受け、同大学はすでに別の訴訟を起こしており、政権の措置を差し止めるよう裁判所に求めている。
米リッチモンド大学のカール・トバイアス法学教授は、今回の訴訟が最初に審理されるマサチューセッツ州およびニューイングランド地域の連邦裁判所では、これまで一貫してトランプ政権に不利な判断が下されてきたと指摘した。
ただし、最終的にハーヴァード大の訴訟が持ち込まれる可能性のある連邦最高裁での結果は、予測しにくいという。
「ハーヴァードにとっては厳しい問題だが、同大学には戦うための資源があり、意志もあるようだ」とトバイアス教授は述べた。
ハーヴァード大の指導部は、ホワイトハウスに対して一定の譲歩をしている。先には、イスラエルの視点を十分に反映していないとして批判を受けた中東研究センターの責任者を解任した。
一方で、同大学はジョー・バイデン前大統領の機密文書保持問題を調査したロバート・ハー元特別検察官を含む、複数の著名な共和党系弁護士を起用し、法的対応を強化している。
現在ハーヴァード大に在籍する外国人学生の間では、今回の対立が原因で他大学への転校や帰国を余儀なくされるのではないかという不安が広がっている。学生ビザ(査証)の維持には、連邦政府のSEVPへの登録が必要なため、ハーヴァード大学がこのシステムから排除されれば、学生はビザ違反と見なされ、最悪の場合は国外退去処分を受ける可能性がある。
BBCの取材に応じた複数のイギリス人留学生は、移民当局への懸念から匿名を条件に発言し、アメリカでの教育が中断されるのではないかと危機感を示した。
ある学生は、「確かにキャンパス内では言論の自由に関する問題があるが、大学はそれに真剣に取り組んでいる。だからこそ、22日の発表には本当に衝撃を受けた」と語った。
別の学生は、「多くの人が怒っている。政治的な駒として利用されているように感じる」と述べた。
追加取材:ケイラ・エプスティーン(ニューヨーク)、バーンド・デブズマン(ホワイトハウス)
(英語記事 Harvard foreign students face uncertainty as Trump plan to block enrollment is halted – for now)
(c) BBC News