初めての綱取り場所で圧倒的な強さを見せた大の里(24)。横綱審議委員会が横綱に推薦する条件である「大関2場所連続優勝、あるいはそれに準ずる成績」という内規をクリアし、場所後には第75代横綱が誕生する。その舞台裏では、先輩横綱の危機も囁かれているという。
師匠の二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)以来、8年ぶりの日本出身横綱となる大の里。7月場所は東西に正横綱が座ることになるが、窮地を迎えそうなのがモンゴル出身横綱の豊昇龍(26)だ。今年の初場所後に昇進したばかりだが、「20代での引退危機を迎えそうだ」との声もあがっている。相撲担当記者が言う。
「今年10月のロンドン場所までは何があっても引退勧告はないだろうが、協会は“金星配給王”に早期の引退勧告を突きつけることが多い。金星を多く配給してしまう横綱の存在は、相撲協会に財政面でマイナスの影響を及ぼすからです」
平幕力士が横綱を倒すのが「金星」だ。金星をあげた平幕には「持ち給金(褒賞金)」が10円プラスされる。
「本場所ごとに給料とは別に支給される手当の額が、この『持ち給金』をもとに決まる。金星ひとつで10円上がると、実際には4000倍した4万円が引退するまで場所ごとにもらえる。つまり、金星が1個出ると、協会にとっては1年で24万円の支出増ということ。その力士がそこから10年間、十両以上の関取として現役を続ければ240万円の支出が増えるわけです」(前出・相撲担当記者)
大鵬、北の湖、千代の富士、貴乃花、白鵬は「1場所平均1個」を大きく下回る
豊昇龍は今場所も2つの金星を配給。横綱昇進2場所で5つ目となった。
「横綱昇進前も上位には強さを発揮するが、前半戦で下位力士相手に取りこぼすことが多かった。横綱昇進を決めた今年の1月場所でも、平幕の熱海富士、正代、平戸海に敗れている。1場所15日制になって以降、横綱昇進を決めた場所で平幕に3敗したケースはなかった。金星が多い横綱になるのは目に見えていたが、ひとり横綱だった照ノ富士が場所中に引退し、横綱空位になるのを避けたかった協会は半ば強引に昇進を決めました」(同前)
過去には武蔵丸(現・武蔵川親方)や稀勢の里(現・二所ノ関親方)のように1場所で5個の金星を配給した例もある。最も金星配給が多かったのは北の湖(元・北の湖理事長)の53個で、貴乃花(元・貴乃花親方)は歴代3位タイの39個だが、彼らは横綱としてのキャリアも長かったので、頻度としては高くない。ベテラン相撲ジャーナリストが言う。
「北の湖は横綱在位が歴代2位の63場所で、金星配給は1場所平均0.84個。貴乃花は横綱在位49場所なので1場所平均0.79個です。横綱在位が最長の84場所の白鵬(現・宮城野親方)は金星配給が26個と少ないことで知られ1場所平均0.31個。大鵬(元・大鵬親方)が0.48個(在位58場所・配給28個)、千代の富士が0.49個(在位59場所・配給29個)でした。長く成績を積み上げた横綱の場合、1場所平均1個を大きく下回るペースになっている」