東欧ハンガリーのオルバン首相が、LGBTQなど性的少数者の抑圧を強めている。性の多様性を表現する「プライドパレード」を禁止し、当局が顔認証機能付きの監視カメラを使って「違反者」を取り締まる措置も導入。親交が深いトランプ米大統領の先を行く強権ぶりは、国内外から批判を受けている。
ハンガリーでは2010年からオルバン氏が長期政権を維持している。リベラル派を敵視する言説、メディア規制、移民排斥など、親交が深いトランプ氏の「モデル」とも言えるような強権化を進めてきた。
そのオルバン氏が近年、急速に進めてきたのが、性的少数者の抑圧だ。
20年に出生時の性別からの変更が禁止され、21年には18歳未満向けの広告で「同性愛の描写」が禁じられた。25年3月には集会で多様性の象徴である虹色の旗を掲げることを禁止。当局が顔認証付きの監視カメラを取り締まりに利用することも認めた。
4月には「性別は男性と女性の二つしかない」と規定し、当局が性的少数者の公共の場での集まりを禁止できるとする憲法改正案が国会で可決された。AP通信によると、反対派は憲法改正案の採決当日、国会周辺で抗議デモを行ったが、警官隊に排除された。
一連の規制強化には国内外から反発が起きている。
顔認証付きの監視カメラは「政敵の監視」にも利用されるとの懸念がある。人権NGO「ハンガリー市民自由連合」のアダム・レンポート氏はAPに対し「訴追を恐れて、人々が公共の場で政治的な考えを表明できなくなる可能性がある」と警鐘を鳴らした。
一方、米連邦下院の22議員は4月30日付のルビオ国務長官への書簡で「LGBTQコミュニティーの表現・集会の自由を弱体化させる法律や憲法改正に懸念を示すべきだ」と要求。ルビオ氏自身も19年にオルバン氏の強権化に懸念を示していたと指摘した。ただ、トランプ氏は「タフな指導者」とオルバン氏を称賛し、親密な関係を維持しているため、米政権が圧力をかける公算は小さい。
ハンガリーでは24年に活動を始めた新たな保守系野党「ティサ(尊重と自由)」が、オルバン政権の汚職体質などを批判し支持を拡大。最近の世論調査では、オルバン氏率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」を上回るケースも出ている。オルバン氏には性的少数者を攻撃することで「伝統的な家族観を守る」という姿勢を打ち出し、保守層からの支持をつなぎとめたい思惑もあるとみられる。【ベルリン五十嵐朋子】