米トランプ政権は29日、温室効果ガスの排出規制の根拠となる「危険認定」の破棄方針を表明した。環境保護局(EPA)のゼルディン長官は、二酸化炭素(CO2)ではなく、温室効果ガスの排出基準そのものが米国民の生活を脅かす「真の脅威」であると主張。この動きは、気候変動対策や環境規制を後退させてきたトランプ政権の政策の中でも特に大きな影響を及ぼす可能性が高い。
「危険認定」の背景と規制の役割
この「危険認定」は、オバマ政権下の2009年にEPAが認定したもので、CO2などの温室効果ガスを大気浄化法に基づく汚染物質と見なし、国民の健康と福祉を脅かす危険性を認定した。これにより、連邦政府が発電所や運輸部門から排出される温室効果ガスを規制する法的根拠が確立された。これは、米国の気候変動対策における重要な基盤となっていた。
トランプ政権の「規制緩和」論と経済的影響
ゼルディン長官は、これまでの温室効果ガス規制が車の価格や輸送費などに転嫁され、国民に負担を強いてきたと訴えている。その上で、自動車に関するすべての温室効果ガス排出規制を廃止する方針も示唆した。長官は同日出演した保守系ポッドキャスト番組で、この決定が「米史上最大の規制緩和となる」と語り、経済活動の自由化を強調する姿勢を見せた。
米環境保護局のゼルディン長官が温室効果ガス「危険認定」破棄方針を表明
司法の争点と国際社会からの反発
今回の「危険認定」撤回方針が最終決定された場合、その妥当性を巡って司法の場で争われる可能性が高い。連邦最高裁判所は保守派の判事が多数を占めるものの、専門家の間では、長年の気候科学研究の厚い蓄積の上に成り立つ「危険認定」を覆すことは容易ではないとの見方が強い。しかし、もし最高裁が政権の見直しを支持すれば、将来政権交代が起きたとしても、再び覆すハードルは著しく高まるだろう。
米国の環境シンクタンクである世界資源研究所(WRI)は、ゼルディン長官の主張に対し、「危険認定」は「徹底的な科学的、経済的分析に基づいている」と反論。その撤回は「市民、環境、経済の保護を危険にさらす行為」だと強く非難している。さらに、国際司法裁判所(ICJ)が今月23日に発表した勧告的意見では、各国が化石燃料の使用による人為的な温室効果ガスを減らし、気候を保護する法的義務があると指摘している。今回のトランプ政権の動きは、この国際的な流れに逆行するものとして、国際社会からの批判も高まることが予想される。ICJの勧告的意見に法的な拘束力はないが、その権威ある決定は国際的に尊重されている。
トランプ政権による温室効果ガス「危険認定」の破棄方針は、米国の気候変動対策を大きく左右する動きであり、国内外からの強い反発や法的争議が予想される。その行方は、世界の環境政策、特に地球温暖化対策に多大な影響を与えるだろう。
参考文献