■恵まれすぎた制度だから取得の意欲を阻んでいる
2025年4月より、育児休業の取得状況の公表義務の対象が従業員1000人超の企業から300人超の企業へと拡大する。しかしそもそも育児休業の取得率の公表を企業に義務づける法律は、世界に類を見ない。日本の、特に男性の育休取得率の低さは、それほどまでに深刻である。育児休業制度が施行されたのは1992年のことだが、男性の取得率が1%を超えたのは、その15年後の2007年のことであった。その後は政府の様々な取り組みや社会の関心の高まりから取得率は上昇し、23年度には30.1%に達したが、それでも逆に言えば約7割は取得しておらず、取得者についてもその期間を見ると約5割が2週間〜1カ月にとどまっている。
その理由は様々挙げられるが、ここでは制度的要因、対象者の心理、会社側の事情、社会的要因の4つに分け、男性の育児休業取得の先進国の一つであるスウェーデンの事例と比較しながら整理してみよう。
まず基本的な日本の制度についておさらいすると、男女ともに子が1歳になるまで取得でき、休業開始から6カ月間は休業前の給与の67%、その後は50%の手当を受け取れる。ただし男性の取得促進のため、男女両方が取得した場合には1年2カ月まで取得可能とし、また保育園に入園できない場合には最長2年まで延長が可能である。
国連のユニセフが19年に発表した報告書によると、日本は男性が取得できる育児休業の期間が世界で最も長い。これは制度が男女を問わず、しかもパートナーの取得状況と独立して(希望すれば同時にも)取得できるようになっていることによる。つまり日本の制度は、世界一長い期間を、男女の区別なく、自由に取得できるという大変恵まれた制度なのである。
けれども、どうやらそのことがかえって取得の意欲を阻んでいる側面もあるようだ。スウェーデンの場合、育児休業の取得は両親合わせて480日であり、そのすべてを取得したければ、男女ともに最低90日を取得しなければならない。他方、日本と異なり子どもが4歳になるまでに384日を、12歳になるまでに残りの96日を取得すれば良く、自由度が高い。スウェーデンでは、男性も取得しないとカップルとして損をするという空気が醸成されていったのである。
これと対照的に、日本では両親が取れば取得期間が1年から1年2カ月に延びるものの、保育園が見つからなければ2年まで延ばせることもあり、それほどありがたみを感じない状況にある。しかもスウェーデンの場合は両親が共同で社会保険庁に受給申請を行うのに対して、日本ではそれぞれの勤め先に個別に申請するため、育児休業の取り方を二人で考える機会に恵まれにくいという状況もある。22年の法改正で、会社による制度の個別周知と意向確認が義務化されたが、夫婦共同申請の必要性がなければ、会社への遠慮もあって「まあ、取らなくていいか」となる男性がいても不思議はない。
対象者の男性の心理についてもう少し詳しく考えてみよう。まずは金銭面について。残業代等も含めた休業前の収入の3分の2が得られるといっても、もとの収入がよほど高くなければ、3分の1を失うのは単純にきつい。しかも子どもが生まれれば、何かと費用がかかるものである。