先日、2026年5月にアメリカのラスベガスで、「エンハンスド(強化)・ゲームズ」が開催されると発表された。
【画像で見る】ドーピング前後のベン・ジョンソン選手の体つきの変化や、エンハンスド・ゲームズのウェブサイト画面
■臨床試験の被験者として参加
短距離走、水泳、重量挙げなどの競技が行われるが、特記すべきは、▼薬物を使わない自然な競技参加、▼選手独自の強化プロトコルによる参加、▼アメリカ食品医薬品局(FDA)の開発段階の薬物を使用する臨床試験の被験者としての参加、の3つから選べるという点だ。
つまり、ドーピングが認められるという、スポーツ界の規範を真っ向から否定するものだといえる。
まずは、ドーピングの概要から説明する。
その歴史は古く、近代オリンピック黎明期から存在し、当時は興奮剤のストリキニーネや、モルヒネ、コカインなどが使用されていた。第2次世界大戦後はアンフェタミンがスポーツに導入され、疲労感を麻痺させることで、限界を超えるパフォーマンスを可能にした。
その効果は絶大で、2004年8月にはアメリカの『ニュー・イングランド・ジャーナル・オフ・メディシン』には、「汚れた栄光―― ドーピングと運動パフォーマンス」という論考が掲載され、「パフォーマンス向上薬の効果は、現代スポーツ科学が提供するあらゆる非薬物的手段(特別なトレーニング法、栄養管理、バイオメカニクスなど)をも凌駕する。すなわち、薬物を使用する一部のアスリートは、使用しない自然な人間の限界を超えた“異種”のアスリート集団を形成し、スポーツの倫理と公正性を脅かしている」と、警鐘を鳴らした。
東ドイツの秘密記録には、「(筋肉増強剤の)アナボリックステロイドは、100メートル走で最大0.7秒、400〜1500メートル走でも数秒単位で記録を縮めることが可能で、投擲(とうてき)種目では数メートルから十数メートルの伸びが得られた」と記されている。
ドーピング前後で記録が大きく変化した有名な例として、陸上のベン・ジョンソン選手などが挙げられる。
■ドーピングの指定薬剤は3種類
現在、ドーピングに指定されている薬剤は、エリスロポエチン、アナボリックステロイド、成長ホルモン(インスリン様成長因子を含む)の3種類だ。