働き方改革やハラスメント意識の向上など、社員の働きやすい環境整備が進む一方、義務を果たさず権利ばかりを主張し、問題行動を繰り返す「モンスター社員」が近年、問題視されている。退職代行の利用者数が増加の一途を辿るなか、“従業員の立場が強くなりすぎてしまう”現状はなぜ生まれるのか。
退職代行利用者が20倍に
退職代行サービスの利用者増加が止まらない。
退職代行サービス「モームリ」(東京)では、事業を開始した2022年度の1100人から、2024年度は約2万人と、利用者がおよそ20倍にまで増加。特に新卒社員に限っては、5月が最も多く、GW明けに依頼が殺到する傾向にあるという。
上司に対して直接、辞意を伝えることが心理的負担になることなどから、20〜30代を中心に利用する人が多い。企業側としては退職代行サービスからの突然の連絡に対し、無理に引き留めようとすると、民法627条の「退職の自由」に抵触するおそれもあり、速やかに退職の手続きを取るほかない。
退職代行の利用者数の増加にもみられるように、ここ数年で企業側と従業員側の労使関係の在り方は大きな変化を遂げている。そんななか、企業側が頭を悩ませているのが、「モンスター社員」の存在だ。
仕事の義務や責任を果たさず権利ばかり主張して、周囲に悪影響を与える社員のことを「モンスター社員」といい、指摘されただけで「パワハラだ!」とすぐ主張したり、業務外の対応には「契約外!」と拒否する一方、残業代を1分単位で請求したり、繁忙期でも構わず有休を連続取得するなどの行動や特徴が挙げられる。
企業側が何か対策を講じようとも、モンスター社員は権利主張が巧みなため、下手に対応すると法的リスクがあったり、そもそも本人に自覚がないことも多く、改善が難航するケースが多々あるのが実情だ。
「静かな退職」という権利主張も
では実際、モンスター社員に代表されるように、“従業員が強くなりすぎてしまう現状”はなぜ生まれるのだろうか。「エンカウンター社会保険労務士法人」の社労士に話を聞いた。
「背景には、労使関係の変化も踏まえ、HPやSNSなどでいろんな会社の内情や労働者の権利などの情報にアクセスしやすくなったのも要因としてあげられます。権利主張のプロセスはさておき、有給休暇の取得の主張などは、見方を変えれば“自身の権利を把握している”という意味で、労働者のリテラシーが向上したとも言えます」(社労士、以下同)
そのうえで、従業員側が権利行使を主張する際の注意点についても警鐘を鳴らす。
「労働関係の法律は、労使の関係を良好に保つためのものであり、権利を盾に対立することは本末転倒です。労働契約には権利だけでなく義務も定められていますから、権利の行使と同時に、義務を果たすことも知ってほしいです」
さらに近年は積極的な権利主張だけでなく、「静かな退職」に代表されるような消極的な主張もみられるようになったのが特徴だという。
「『静かな退職』とは熱心な勤務姿勢を捨てて、自分の仕事に対して最低限の責任だけを果たすといったスタンスであり、アメリカで発信され日本でも認知が広がりつつある概念です。
プライベートを犠牲にした働き方をよしとする周囲の同調圧力に屈せず、『最低限のミッションを果たしているのだから、とやかく言われる筋合いはない!』という一種の権利主張の在り方になっています」