モーニング娘。OGの道重さゆみが、2025年8月14日に東京・Zepp Diver Cityで開催されるコンサート「SAYUMINGLANDOLL~SAMSALA~」をもって、約22年にわたる芸能活動に幕を閉じることが発表されました。加入初期の劣等生時代から、グループを再ブレイクに導いた伝説のリーダー、そしてソロアーティストとして独自の表現を追求する存在へと成長を遂げた彼女の、波瀾万丈な軌跡を振り返ります。
約22年の芸能活動に幕を閉じる道重さゆみのポートレート写真
劣等生から始まったモーニング娘。時代
道重さゆみがモーニング娘。に6期メンバーとして加入したのは2003年1月19日。「モーニング娘。LOVEオーディション2002」で約1万4000人の応募者の中から、亀井絵里、田中れいなと共に選ばれました。同時期にソロ歌手の藤本美貴も合流し、“伝説の6期”と呼ばれる人気を誇ることになるこの4人の中で、加入初期の道重は後列に甘んじる劣等生でした。本人が冗談めかして「モーニング娘。に入るまで歌に音程があることを知らなかった」と語るほど、歌唱力やリズム感には課題がありました。
結成以来、ダンス&ボーカルを追求する実力主義のアイドルグループであるモーニング娘。において、パフォーマンスで遅れをとる彼女にソロパートが与えられることはほとんどなく、事務所から積極的に推される機会も稀でした。人気のバロメーターとされるソロ写真集も、同期メンバーが次々と新作をリリースする中で、道重は1冊目を発表したきり。「かわいいけれど、目立たないメンバー」という時代が最初の2~3年続きました。
才能の開花:ラジオ・バラエティーでの飛躍
そんな道重さゆみに転機が訪れたのは、2006年10月5日にスタートしたソロラジオ番組「モーニング娘。道重さゆみの今夜も♡うさちゃんピース」(CBCラジオ)、そして2007年6月9日から明石家さんまがメインパーソナリティーを務める人気ラジオ番組「MBSヤングタウン土曜日」(MBSラジオ)へのレギュラーパーソナリティー抜擢でした。ラジオでのトークの面白さはすぐに評判を呼び、特に「ヤンタン」では、明石家さんまという大御所相手にトーク力をさらに鍛えられていきました。
バラエティー番組での躍進もこの時期から始まります。当時まだ珍しかった「毒舌アイドル」という独自のキャラクターを確立し、芸人顔負けの鋭い切り返しでバラエティーアイドルとしての知名度を高めていきました。この道重個人の活躍は、当時メディア露出が減少していたモーニング娘。にとって、グループの存在を再び世間に知らしめる大きなきっかけとなったのです。
2011年11月には「いきなり!黄金伝説。」(テレビ朝日)の人気企画「1ヶ月1万円生活」に出演。現役モーニング娘。メンバーの挑戦は大きな注目を集めました。グループの低迷期にあった当時、放送内で「今のモーニング娘。を知ってもらいたかったから」と涙ながらに出演の真意を語った姿は、今も語り継がれる有名なシーンです。ちなみに、「ヤンタン」では、いつものイジリに癇窶を起こしてさんまに鉛筆を投げつけるという伝説的な事件も起こしており、彼女の奔放な個性を示すエピソードとして知られています。
伝説のリーダーへ:モーニング娘。再ブレイクの立役者
2012年、新垣里沙からバトンを受け継ぎ、モーニング娘。の8代目リーダーに就任しました。ここからグループは再ブレイクの上昇気流に乗っていきます。この時代の道重を指して、再ブレイクの立役者、「中興の祖」と呼ぶファンは少なくありません。
ただし、再ブレイクは道重さゆみ一人で成し遂げたわけではありません。高橋愛、新垣、亀井、田中といった5期、6期メンバーが要となって築き上げたハイレベルなパフォーマンスがようやく世間に見つかったこと、鞘師里保や佐藤優樹ら新世代の9期、10期メンバーが加入してグループがフォーメーションダンスという新しい武器を得たこと、そしてプロデューサーであるつんく♂が仕掛けたEDM路線が成功したことなど、様々な要因が複合的に作用した結果でした。
しかし、当時の日本のエンタメ事情において、テレビ露出は非常に重要視されていました。世間からの認知を失っていたモーニング娘。を外側から懸命に宣伝し、田中れいな卒業後、唯一の先輩として新生モーニング娘。をメディアへとリードし、当時中学生ばかりだったメンバーをまとめ上げ、多幸感溢れるモーニング娘。を創り上げたのは間違いなく道重さゆみ自身の功績です。そうした努力と貢献は、彼女を再ブレイクの立役者と評するにふさわしいものです。モーニング娘。のためにできる努力を惜しまず、グループが最も彼女を必要とした15周年という節目に、リーダーになるべくしてなったと言えるでしょう。
卒業、そして唯一無二のアーティスト「SAYUMINGLANDOLL」へ
2014年11月26日、横浜アリーナでの卒業公演を最後にモーニング娘。としての活動に終止符を打ち、無期限の休養期間に入りました。そして、2017年3月19日、彼女自身の世界観を凝縮したソロ公演「SAYUMINGLANDOLL~再生~」で劇的な復活を遂げます。ここから始まったのは、音楽、ファッション、そしてパフォーマンスで“ソロアーティスト・道重さゆみ”を追求する新たな物語でした。
「SAYUMINGLANDOLL」は単なるライブやミュージカルの枠を超えた存在です。カワイイもカッコいいもファンシーも、それら全てが詰まった唯一無二のエンターテインメントショーとして多くのファンを魅了しました。かつて歌もダンスも苦手だと自虐していた彼女は、絶え間ない努力の末に、確かな表現力を身につけたアーティストへと変貌を遂げていたのです。その事実は、このステージが何よりも雄弁に物語っています。
なお、「SAYUMINGLANDOLL」の原点は、ハロー!プロジェクトの演劇・ミュージカルで歌唱指導も行っていた新良エツ子が出演する舞台「ギア-GEAR-」にあるとされています。これについては「WEBザテレビジョン」の新良エツ子へのインタビュー記事で詳しく語られています。
劣等生として芸能界のキャリアをスタートさせた道重さゆみは、やがてグループを復活に導く伝説のリーダーとなり、ついには自身の美学を追求する唯一無二のアーティストへと成長しました。その歩みは、ラストツアーのタイトル「SAMSALA(輪廻)」が示すように、まさに一つの壮大な物語のようです。今回の引退は多くのファンにとって寂しい事実であることは間違いありませんが、最後に誰も真似できない「道重さゆみ」という唯一無二のジャンルを創り上げた、その物語の結末をリアルタイムで見届けられることは、ファンにとってある種の幸せなのかもしれません。
参考文献
- Yahoo!ニュース: 道重さゆみ、22年の芸能活動に幕。劣等生から伝説のリーダー、ソロアーティストとして復活したこれまでの軌跡を振り返る. https://news.yahoo.co.jp/articles/56cca6a20666f69078c39eebc3522480bd41225f
- WEBザテレビジョン: 道重さゆみソロ公演「SAYUMINGLANDOLL」を支える新良エツ子が明かす、道重との“信頼関係”と“驚きの成長”の裏側. https://thetv.jp/news/detail/1097230/ (参考記事のためURLは例示)
- CBCラジオ: モーニング娘。道重さゆみの今夜も♡うさちゃんピース
- MBSラジオ: MBSヤングタウン土曜日
- テレビ朝日: いきなり!黄金伝説。