【ワシントン=中根圭一、ニューヨーク=金子靖志】米紙ニューヨーク・タイムズは27日、米連邦政府がハーバード大と交わした全ての契約を打ち切るよう関係機関に指示したと伝えた。大学側は政権の措置に反発し、法的対応を続ける構えだ。「反ユダヤ主義」を口実にした締め付けは米国の他の名門大学にも波及し、学界では人材流出が米国の国力低下につながりかねないと懸念が強まっている。
同紙によると、連邦政府施設や予算の使用を管理する一般調達局が関係機関に対して27日付の書簡で指示し、6月6日までに同大との契約打ち切りの進展状況を報告するよう求めた。
対象の契約は調査や研究、研修など多岐にわたり、食品の健康影響調査に関する米国立衛生研究所(NIH)との契約や国土安全保障省の幹部研修が含まれる。大学側の損失は総額約1億ドル(約140億円)に上るとみられ、同紙は政府との長年のビジネス関係の「完全な断絶だ」と報じた。
トランプ政権は同大に対し、パレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエルへの抗議デモを黙認し、「反ユダヤ主義を助長した」などとして圧力をかけてきた。こうした圧力は、同大などアイビーリーグと称される米北東部の名門8大学を狙い撃ちにする形で強まっている。
特にハーバード大は政権の要求に抵抗したことで、他大学への「見せしめ」として標的となっている。政権による留学生受け入れの停止措置に対しては連邦地裁が一時差し止めを命じたが、政権は26日に同大への約30億ドルの補助金を打ち切ると表明し、対決姿勢を強めている。
ハーバード大のアラン・ガーバー学長は27日、政権の契約打ち切りについて「科学や医学研究への壊滅的な攻撃だ。政権の行き過ぎた介入で不当かつ違法だ」と非難した。同大では27日、学生や教授ら数百人による抗議デモも行われた。学生らは「(政権の)理不尽な対応が終わるまで闘い続ける」などと声を上げた。
抗議デモに参加した米国人女子学生は「多くの留学生が(政権の)報復を恐れて声を上げられない状況だ。米国の学生の一人として私は彼らのために声を上げる責任がある」と語った。
同大は「学問の自由と大学の自律を守る」と訴え、政権の要求には一切譲歩しない構えだが、このままでは外国からの志願者減少や調査・研究活動の停滞といった影響は避けられない見通しだ。米国の他の名門大学への圧力が強まり、優秀な人材の流出が続けば学術の衰退につながり、中長期的には米国の国益を損なうとの見方が強まっている。