今年も五月病の季節がやってきた。Z世代の価値観によるものなのか、売り手市場のせいなのかはさておき、新入社員の退職に悩む声を例年にも増してよく耳にする。
とりわけ話題にのぼるのが、ここ数年で注目されるようになった「退職代行サービス」について。
この退職代行サービスの概要はもう説明不要だろう。上司や人事部とやりとりをする煩わしさがなく、一足飛びに会社を辞められることから、瞬く間に人気を博すようになった。
そんな退職代行業に頭を悩ませているのが、都内でIT企業の人事部で働いている佐藤雅美さん(仮名・30代)だ。
今年もすでに1人の女性社員が…
佐藤さんが務める会社は、エンジニアの人員はIT企業らしく多い一方、人事部の人手は薄いという。ただでさえ多忙だったにもかかわらず、このところは退職代行サービスの流行によって、さらに仕事が増えてしまったと話す。
「退職代行サービスは数年前からありましたが、ここ最近では参入する企業も増え、すっかり市民権を得ていますよね。すでに、弊社でも退職代行を使って辞める人が増えてきています。これまでよりも気軽に会社を辞められるので、特に若い社員は何の迷いもなく利用している印象です。
実は、今年度に入社した新入社員でも1人、いきなり無断欠勤した挙げ句に退職代行を使った女性がいます。人事部としては、退職する社員の処理だけでなく、新たに人員を確保するためのコストをかける必要も生まれてくる。われわれ人事部の人間としては本当に頭が痛い商売です」
電話に出ないから、内容証明を送る必要が
退職代行を利用されると、退職までの過程が通常の流れとはやはり異なってくる。佐藤さんいわく、人事部にかかる負担も非常に大きくなるそう。
「弊社では退職する社員の給与やボーナスの精算をはじめ、パソコンなどの貸与物の返却要請など、煩雑な業務を人事部が行います。
本人が退職を申し出てくれた場合は、最終出社日までに処理を進めればよいので余裕があるのですが、退職代行サービスの場合は時間に猶予がないので、ほかの業務にも支障が出てきてしまうんです。
特にひどいのは会社の備品を家に持ち帰っていた場合です。代行業者に伝えてもまともに取り合わない会社もあり、そうなると辞める社員に連絡をしないといけない。
退職代行を使うくらいですから、こちらの電話なんてまず取りません。すると返却リストなどをわざわざ内容証明郵便で送るはめになるわけです。頼むから、退職代行を使うのならば、返すものをキチンとまとめてから利用してくれと思いますね」