江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。5月25日の第20回「寝惚けて候」では、将軍の後継者をめぐって、一橋治済がまたしても謎の動きを。それと同時に「狂歌」という、新しい文化の黎明期も描かれた。
■ 将軍の後継問題に新たな火種…第20回あらすじ
将軍・徳川家治(眞島秀和)は実子を作ることをあきらめ、御三卿・一橋治済(生田斗真)の長男・豊千代を養子として迎え入れることにした。そして松平定信(寺田心)の妹で家治の養女・種姫を豊千代の正室にするため、すでに輿入れしている島津重豪(田中幸太朗)の姫は側室にするよう、田沼意次(渡辺謙)は治済に申し出るが、重豪が強く拒否。しかしそれは、治済の指示による重豪の演技だった。
意次は大奥総取締・高岳(冨永愛)に判断を仰ぎ、その結果種姫は紀州徳川家に嫁ぎ、家治の側室・知保の方(高梨臨)は西の丸から追い出されることになった。ほとんどの人間が、これらは意次が田安家を排除するための陰謀だと考えるなか、家治は豊千代の周りが、一橋家の者で固められていることを懸念。誰が将軍になっても揺るがない政の体制を整えようとする意次に、そのためには自分を上手く使うようにと命じるのだった・・・。
一橋治済の謀略により「全部意次のせい」
この第20回の重三郎は、ライバルの看板商品のコピーを作ることで細見の大きなミスを誘発し、周囲が自分の作った細見だけを買い上げるように仕掛ける・・・という、文字だけで説明すると「ただの悪徳商法じゃねえか!」としか思えない、なかなかギリギリの手段で成功を収める所が描かれた。そして幕府パートの方もまた、謀略の成果が見事に結実した者がいる。そう、『べらぼう』きってのヒールキャラ・一橋治済だ。
江戸の内でも(多分)外でも毒を盛りまくったおかげで、時期将軍の候補は自分の息子に一本化された。意次からその報告を受けて「次の将軍には 当家の豊千代を・・・」と驚いた風に言う姿に、さぞ視聴者たちは「白々しいんじゃあああ!」と心のなかでシャウトしたことだろう。しかし治済の望みはそこにはとどまらず、田安家出身の種姫を将軍の正室にするという計画にまで、妨害工作を仕掛けはじめた。
薩摩の島津重豪を猿芝居に巻き込み、しかも息のかかった大奥女中・大崎(映美くらら)を使って、種姫の輿入れには田沼意次が反対しているという、まったく逆の情報を流した。こうして定信をはじめとする田安家の人々に「全部意次のせい」と思いこませることで、一橋家には火の粉がかからないようにする・・・という完全犯罪ぶりは、もう憎たらしいのを通り越して芸術性すら感じる領域である。
本当に踏んだり蹴ったりな意次だけど、救いとなっているのは前回で覚醒した将軍・家治が、意次が目指している政治体制づくりを、全面的にサポートしてくれていることだろう。とはいえ、治済が自分の子どもを将軍にするだけでなく、ほかの徳川家の血を宗家から遠ざけようとする理由が、重豪が指摘した通り、今のところはよくわからないのがかえって不気味だ。ただの気まぐれなのか、それとももっと壮大な野望の一手なのか? 当分治済から目が離せない・・・というより、インパクトがいろいろすご過ぎて離しようがない(笑)。