排気量3.0リットル車の自動車税は、軽自動車の約5倍だ。アメリカに至っては、州ごとに差異はあるが同じ車なら31分の1で済む。日本の車に課される排気量課税は本当に平等なのだろうか。
日本の排気量課税には、疑問点が存在する。最新エコターボ搭載の大排気量車と比較して、旧式の小排気量車の方が税金が安いという矛盾もある。複雑な税制と国際比較で見えてくるのは、毎年5月に多くのドライバーを憂鬱にさせる納税通知書の背景には、日本独自の奇妙な仕組みがあるということだ。
この古い課税方式は、電気自動車(EV)時代を前に、どう変わろうとしているのか。2026年に予定される税制改革を前に、ドライバーが知っておくべき自動車税の真実を見て行きたい。
排気量の大きさによって決まる日本の自動車税の実態
日本の自動車税(種別割)は、エンジンの排気量によって税額が決まる排気量課税を採用している。1.0リットル以下では年間2万9,500円、1.5リットルで3万4,500円、2.0リットルで3万9,500円と段階的に上昇し、6.0リットル超の大排気量車になると11万1,000円にも達する。軽自動車に関しては、1万800円と大幅に優遇されている。
なぜこのような排気量に連動した課税体系が取られているのだろうか。その理由の一つは、大きな排気量=高い環境負荷という前提だ。実際、環境性能に劣る車には重課税が科され、新規登録から13年経過したガソリン車や11年経過したディーゼル車には約15%の割増課税が適用される。
しかし近年の技術革新により、この前提は必ずしも当てはまらなくなっている。例えば、最新の2.0リットルターボエンジンは、旧式の1.5リットル自然吸気エンジンよりも燃費が良く、CO2排出量も少ないケースがある。
それにもかかわらず、排気量だけで税額が決まるため、環境負荷の大小が正確に反映されないという矛盾が生じているのだ。このように排気量課税は、古い価値観に基づいた制度であり、現代の自動車技術の実態と乖離しているという批判がある。
日本の自動車税制を世界と比較する
日本の自動車税制は世界一高いと言われることがあるが、実際はどうなのだろうか。
JAF(日本自動車連盟)の調査によると、日本の消費税を除く車体課税の負担は、アメリカと比較すると約31倍もの差があるという。しかし欧州諸国と比較すると、必ずしも日本だけが突出して高いわけではない。
各国の自動車税制を見てみると、アプローチの違いが明確だ。アメリカやカナダでは、車両登録税のみと税の種類が少なく、税額も1,000円~15,000円程度と低額に抑えられている。これが大型SUVやピックアップトラックが広く普及している背景の一つの要因だ。
一方、欧州では環境性能を重視した課税体系が主流とされている。ドイツは排気量100ccあたりにガソリン車で2ユーロ、ディーゼル車で9.5ユーロを課税し、さらにCO2排出量に応じた課税も行っている。イギリスも同様にCO2排出量に応じた税率を設定している。
日本と欧州の違いは、日本がエンジンの大きさを基準にしているのに対し、欧州は実際の環境負荷(CO2排出量)を重視している点だ。単純に排気量で見る日本と比較すると、大排気量でも環境性能が高ければ税負担が軽減される欧州の方が、より合理的な制度と言えるだろう。
複雑すぎる日本の自動車税制の問題点
日本の自動車関連税は、取得時、保有時、使用時の各段階で、それぞれ税が課せられる複雑な体系だ。具体的には「環境性能割(旧・自動車取得税)、消費税、自動車税、重量税、ガソリン税など7種類もの税金が存在し、重複した課税が行われている。この複雑さは自動車ユーザーの理解を難しくしているだけでなく、行政側のコスト増にもつながっている。
例えば、環境性能に関する課税だけでも、取得時の「環境性能割」、毎年の「自動車税」、そして一定年数経過後の「重課」と複数の制度が混在している状態だ。さらに問題なのは、自家用乗用車に特に高い税率が設定されている点。これが若者の車離れを加速させ、ひいては日本の自動車産業の衰退にもつながっているという指摘もある。実際、近年の自動車業界は車ユーザーに対する過重な税負担の是正を求めている。
公平性の面でも疑問がある。排気量や車重による課税は、結局のところ車体が大きいほど課税額が増えるという結果をもたらした。これにより、大家族など大きな車を必要とする人は、高い税負担を強いられることとなる。この事実は、支払能力に応じた課税という税の基本原則が、必ずしも守られていないことを意味している。
環境性能を軸とした新しい税制への転換は可能か
自動車税制の見直しは常に議論の的となっているが、政府は2022年12月、2026年度に自動車税制の見直しを行う方針を示した。これはエコカーの普及により減少した自動車関連の税収を回復させるためだという。この方針が意味するのは、今後自動車ユーザーの税負担がさらに増える可能性が高いということだ。しかし単に税収を増やすのではなく、より合理的で公平な税制への転換が望まれる。
例えば、排気量ではなく実際のCO2排出量や燃費性能に応じた課税体系への移行は、環境への配慮と税負担の公平性を両立させる解決策となり得る。近年ではEVの普及に伴い、排気量という概念自体が意味をなさなくなる時代も現実味を帯びてきた。
将来的には、走行距離税のような新たな課税方式の導入も検討されているが、これには個人のプライバシーの問題や、地方居住者への配慮など、新たな課題も存在する。
自動車税制の理想形は、環境負荷の軽減というインセンティブを与えつつ、ユーザーに過度な負担を強いない制度だろう。しかし、実際には税収確保という国の財政事情と、負担軽減を求める車ユーザーや業界との間で、妥協点を見出す難しい調整が続いているのが現実だ。
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