コンテナバブル
昭和の頃なら“給料袋が立つ”と言われたに違いない。5月16日、日経速報ニュースが報じた〈日経賃金動向調査〉において、夏のボーナスで146社中トップに立ったのが、海運大手の商船三井だ。船や貨物列車に積まれたコンテナに「MOL」と大きく書かれているのを見たことがあるのではないか。同社の略称である。
で、商船三井の夏のボーナスは335万円。何ともうらやましい額だが、同社の平均年収は1675万円。ライバルの日本郵船、川崎汽船も1300万円台といずれも結構な高給である。
海運業界で働く関係者が言う。
「海運会社の業績は船賃の上下で決まりますが、日本では1960年代から国主導で行われた“海運集約”によって大手3社の寡占体制が出来上がっています。外国企業との激しい船賃競争に対抗するためでしたが、最近になって“神風”が吹いたことも大きいのです。コロナ禍が収束し始めた2023年、世界経済が一斉に動き出したことで、コンテナ船が足りなくなってしまい、船賃が急上昇。海運業界は“コンテナバブル”と呼ばれるほどの好業績をたたき出しました」
ボーナスは「ROE連動」
その勢いが冷めやらぬうちにというわけか、商船三井は24年度から従業員のボーナスを「ROE連動」にすると決める。自己資本に対してどれだけ利益を上げたのかという経営指標を反映させる仕組みだ。
同社に聞くと、
「(ROE連動のボーナス制度は)経営目標と市場評価・株主視点を一時金の考え方に取り入れ、従業員の経営参画意識の醸成を図るとともに、一時金決定の仕組みの透明性・可視化を図り、会社と個人の目指す方向を合わせることが狙いです」(コーポレートコミュニケーション部の担当者)
なるほど、社員の意識も高まりそうだが、雑誌「経済界」の関慎夫編集局長によれば、
「そもそも日本企業においてボーナスは月給と同じ“生活給”とみなされてきました。計算法も基本給にベア(ベースアップ)を加え、その何カ月分というやり方です。だから会社が赤字になっても、ボーナスは支給されてきた。しかし、商船三井は業績連動にして、ボーナスをマーケットに委ねたことになる。その方が株主に説明しやすいからでしょう」
商船三井の24年度のROEは16.9%。これを同社のボーナス制度にあてはめると年間で600万円を超える計算になる。
来年度の海運市況はさておき、冬のボーナスもランキング上位に顔を出しそうである。
「週刊新潮」2025年5月29日号 掲載
新潮社