ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5日、西側諸国がウクライナに派遣を検討している「再保証部隊」について、戦争終結後に派遣されるものであっても拒絶する姿勢を示した。さらに、他国からウクライナに派遣されるあらゆる部隊は、ロシアにとって「正当な標的」となると強く警告し、既に高まっていた和平への期待が再び遠のく事態となっている。
マクロン大統領の提案とプーチン大統領の反発
この部隊派遣案は、ウクライナを支援する「有志連合」35カ国の首脳がフランス・パリで4日に開催した会合で協議されたものだ。エマニュエル・マクロン仏大統領は、欧米26カ国が、ウクライナでの停戦合意成立の翌日には、「陸、海、空から」軍隊を派遣することを正式に約束したと発表した。具体的な国名は伏せられたものの、これはウクライナの安全保障を強化するための重要なステップと位置付けられている。
しかし、プーチン大統領はウクライナの同盟諸国によるこの動きを阻止しようと、ウクライナに派遣される部隊はロシアの攻撃の「正当な標的になる」と警告した。特に、現在部隊が派遣されれば標的になると強調したが、西側諸国は現時点でウクライナへ部隊を派遣する計画はないとされている。
プーチン大統領、ウラジオストクの東方経済フォーラムで演説。ウクライナへの西側部隊派遣は「正当な標的」と警告するロシアの強硬姿勢を示す
和平交渉の見通し:ゼレンスキー大統領、トランプ氏の関与
先月に米アラスカ州で行われたプーチン大統領とドナルド・トランプ米大統領(当時)の首脳会談後には、プーチン大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談、さらには和平合意の実現への期待が一時的に高まった。だが現状では、停戦実現の見通しは薄れていると言わざるを得ない。
プーチン大統領は5日、ゼレンスキー大統領と直接やりとりする用意はあるとしながらも、「そうする意味をあまり見いだせない。なぜなら、主要な問題について、ウクライナ側と合意するのがほぼ不可能だからだ」と述べ、交渉の困難さを露呈した。
一方、トランプ氏はその後、ソーシャルメディア上で「インドとロシアを、最も深くて最も暗い中国に奪われたようだ」と投稿。この投稿には、中国・天津で開催された上海協力機構(SCO)首脳会議で、中国、インド、ロシアの3首脳が並ぶ写真が添えられており、国際的な力学の変化を示唆した。
ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、解決策を見つけるためのトランプ氏の「非常に建設的な動き」を称賛する一方で、「戦争継続をあおる欧州諸国のとんでもない動き」を強く非難した。
西側の安全保障努力と「再保証部隊」の役割
アラスカでの首脳会談以降、イギリスとフランスが主導する「有志連合」は、ロシアとの合意が成立した場合に備え、ウクライナの安全を保証するために精力的に取り組んできた。この安全保障には、ウクライナ軍の強化に加えて、ロシアとの合意が守られているかを監視するための「再保証部隊」の派遣が含まれる。
マクロン仏大統領は、部隊派遣はあくまでも「新たな大規模侵略」を防ぐためのものであり、前線には配備されないと強調している。さらに、派遣部隊は「ロシアとの戦争を遂行する意思も目的も持たない」とし、その限定的な役割を明確にした。
ゼレンスキー大統領は、4日のパリ会合で欧米諸国が正式に約束した内容を高く評価。5日には、数千人規模の外国部隊が派遣されるだろうとの見方を示したが、詳細を語るのは時期尚早だとした。アメリカの「再保証部隊」への関与については、マクロン大統領は数日中に最終決定される見通しだと述べるに留まった。トランプ氏は最近、アメリカの支援は「おそらく」空から提供されるとの見解を示しており、ゼレンスキー大統領も「ウクライナの空を最大限守る」ことについてトランプ氏と協議していると明かしている。
ロシアの停戦条件と国際社会の反応
ウクライナ政府は、全般的な和平合意を目指すよりも先に、まずはウクライナ国内での停戦で合意する必要があると考えているが、ロシアはこれに反対している。
プーチン大統領は、極東ウラジオストクで開催された第10回東方経済フォーラムでの質疑応答で、「長期的な平和につながる決定がされるなら、(外国部隊のウクライナ)駐留に意味があるとは思えない」と述べた。続けて、ロシアは長期的な平和につながるあらゆる決定には「全面的に」従うと付け加えたが、ウクライナや西側の同盟国は、プーチン大統領のこの発言に説得力を見出せないだろう。
プーチン大統領は、モスクワでゼレンスキー大統領との会談を開催する用意があるとの主張を繰り返し、安全保障も提供するとした。ロシア側の提案が、和平合意よりもウクライナの降伏に関心があることを示しているのではないかと問われたペスコフ報道官は、「それはまったく違う。まったくそうではない。(ゼレンスキー氏は)降伏ではなく話し合いのためにモスクワに招かれている」と答えている。
ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領が本気ではない証拠だとして、ロシア側の提案を冷笑しており、プーチン大統領は中立国での会談案を「過剰な要求」だと不満を表明している。ゼレンスキー大統領は、「我々はどんな形式でも支持する。二国間でも三国間の会談でも。ロシアは会談を先延ばしにするために、あらゆる手段を講じている」と訴えた。
西側諸国の指導者たちも、ロシアによる全面侵攻が3年半も続く中で、ロシアがウクライナ領土をさらに掌握するために時間稼ぎをしていると見ている。プーチン大統領は、ウクライナ国内のすべての前線でロシア軍が前進していると主張した。
こうした中、プーチン大統領は3日、中国・北京で開かれた第二次世界大戦における日本の正式な降伏から80年の記念式典と軍事パレードに、習近平国家主席ならびに北朝鮮の金正恩総書記とそろって出席し、新たな国際的な連携を示す場となった。
ロシア政府は、ウクライナに西側諸国の部隊を派遣すべきではないとの考えを明確にしており、ロシア自身がウクライナの安全の「保障国」の一つになるべきだと主張しているが、ウクライナ政府とその同盟国はこの案を拒否している。ペスコフ報道官はBBCに対し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国かどうかにかかわらず、どのような外国部隊もロシアにとって危険な存在だと主張し、「なぜなら我々はNATOにとって敵だからだ」と付け加えた。
NATOのマルク・ルッテ事務総長は4日、ウクライナへの部隊派遣について、ロシアに拒否権はないとして、「ウクライナへの派兵についてロシアがどう考えるかなど、私たちは気にしない。ウクライナは主権国家だ。ロシアが決めることではない」と述べ、ロシアの警告を一蹴した。
ロシアとの合意が成立した場合に、ウクライナに地上部隊を派遣することを公に約束している国はほとんどなく、アメリカはすでにその可能性を否定している。欧州の外交官たちは、今の段階で部隊を派遣すれば、おそらくプーチン大統領の西側批判を助長することになるとの見方を示す。
しかし、英首相官邸の報道官によると、キア・スターマー英首相は、アメリカの支援を受けた西側同盟国はウクライナに対して「破れない誓い」をしており、ロシアに戦争終結を迫る役割を担っているという考えだ。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相はパリでの会合後、ゼレンスキー大統領を含む会談を開いて停戦を確保することが最優先事項で、その次に、「強力な安全の保証」を提供する必要があると述べた。
ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まって3年半が経過した今週、プーチン大統領は「トンネルの出口にはある種の光がある」とし、「紛争終結時にウクライナの安全を確保する選択肢はある」と述べた。しかし、プーチン大統領は5日には、ウクライナと何らかの合意に達する可能性に疑問を投げかけるような発言を行った。2022年9月にロシアが支配するウクライナ4州で実施された「住民投票」で、住民らがロシアへの帰属を選択したことに沿ってウクライナが領土変更に応じ、戒厳令を解除する必要がある、とプーチン大統領は主張したのだ。ロシアは現在、ウクライナ東部のドネツク、ルハンスク、南部のヘルソン、ザポリッジャの各州と、クリミア半島を違法に併合しているが、完全に支配しているのはクリミアのみである。
イギリスのジョン・ヒーリー国防相は、「プーチン氏を交渉の席につかせ」、「あらゆる選択肢を閉ざさなかった」としてトランプ氏を称賛している。
まとめと今後の展望
今回のプーチン大統領による西側部隊派遣案の拒否と「正当な標的」発言は、ウクライナ紛争の停戦と和平合意への道のりが依然として険しいことを明確に示している。西側諸国はウクライナの安全保障強化を目指し、フランス主導で「再保証部隊」の派遣を検討しているが、ロシアはこれを強く牽制し、いかなる外国部隊も軍事行動の対象となると警告している。
一方で、和平交渉の条件についても、ウクライナ側が停戦を優先するのに対し、ロシア側は領土問題を含む「完全な和平合意」を求めており、両者の溝は深い。トランプ氏の関与や、中国・北朝鮮を含む新たな国際的な連携の動きも、情勢をさらに複雑にしている。
フランス大統領府の関係筋は、完全な和平合意なしに停戦が維持された歴史的事例として、南北朝鮮間の軍事境界線を挙げ、強力な抑止力としての外国軍の存在がウクライナの将来にとって極めて重要であるとの見方を示している。しかし、ロシアの強硬姿勢が続く限り、具体的な解決策を見出すことは困難であり、ウクライナと国際社会は依然として厳しい外交努力を強いられることになるだろう。
参照元
- BBC News (英語記事 Putin rejects Western security in Ukraine, warning troops would be target)
- Yahoo!ニュース (https://news.yahoo.co.jp/articles/865d1ef9fe77accc3e10d1feda369adaf8a93cbd)