米トランプ大統領は5月20日、アメリカ本土に向けて発射されたミサイルを地上と宇宙から迎撃する「ゴールデン・ドーム」という防衛システムの構築に3年で1750億ドル(約25兆円)の予算を投入すると発表した。
【写真】レバノンから発射されたロケット弾を迎撃するイスラエルの防空システム「アイアンドーム」
トランプ大統領は「地球の反対側から発射されたミサイルや、宇宙から発射されたミサイルさえも迎撃できる」と意気込み、自分の任期中にこのシステムを運用開始させると語るが、本当にそんな高度な迎撃システムを短期間に構築することなどできるのか。英ポーツマス大学戦略・航空力学研究科教授のマシュー・パウエル氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──トランプ大統領が発表した「ゴールデン・ドーム」とはどのようなものですか?
マシュー・パウエル氏(以下、パウエル):弾道ミサイル、巡航ミサイル、超音速ミサイルなどからアメリカを守るマルチレイヤーのミサイル防衛システムです。イスラエルが導入しているアイアン・ドーム・システム(※)と基本的なコンセプトは同じで、相手が飛ばしてきたミサイルが着弾する前に、こちら側から迎撃する防衛システムです。
アイアン・ドームの場合は、地上から迎撃ミサイルを発射するのに対して、今回発表されたゴールデン・ドームは、宇宙から迎撃ミサイルを発射するのです。その内容は、1983年にレーガン大統領が発表した戦略防衛構想(SDI)(※)という防衛システムとほとんど同じものです。
※アイアン・ドーム・システム:イスラエルの軍需企業とイスラエル国防軍が、アメリカからの援助を受けて開発した防空システム。高い精度で外からの攻撃の迎撃に成功していることから「鉄の丸天井」とも呼ばれる。
※戦略防衛構想(SDI):1983年にロナルド・レーガン米大統領が発表した戦略ミサイル防衛構想。宇宙にアメリカの防衛網(ミサイル迎撃レーザー兵器)を配備して、外国からアメリカへの攻撃を宇宙から迎撃するシステム。「スターウォーズ計画」とも呼ばれた。実際のシステム構築には至らなかった。
──ゴールデン・ドームが構築されたら、どの程度の防衛が可能になると思われますか?
パウエル:ゴールデン・ドームは理論上、弾道ミサイル、巡航ミサイル、超音速ミサイルなどに正確に照準を合わせて迎撃できると説明されています。この網をくぐってアメリカ本土に外国が攻撃をすることは、相当難しくなるのでしょう。本当にそんなシステムを配備できるならの話です。
高度なセンサーや迎撃設備を宇宙に運んで効果的に運用することに、どれだけの手間や費用がかかるでしょうか。レーガン大統領がSDIを発表したときと同じで、構想を語ることはできますが、そう簡単に実現できるものではありません。
兵器をどのように宇宙まで運ぶか、いかにミサイルの発射を固定させて安定させるか、どのようにターゲットに正確に照準を合わせるか、システム間でいかに情報を伝達して上手く連動させるかなど、さまざまな課題が想起されますが、そうした部分に関する説明はありません。
トランプ大統領は漠然とゴールだけを掲げていますが、実用化には最短でも30年はかかると思います。その間ずっと巨額の投資を続けなければなりません。