9月に入っても記録的な猛暑が続く中、通勤や通学、日常生活で手放せないアイテムとなっているイヤホンに、意外な健康リスクが潜んでいます。特に高温多湿な環境下での長時間使用は、耳のトラブル、具体的には「耳カビ」と呼ばれる外耳炎の発症リスクを高めることが専門家から指摘されており、早急な対策が求められています。
猛暑とイヤホンが引き起こす「耳カビ」の脅威
近年、ワイヤレスイヤホンやヘッドホンの普及は目覚ましく、10代から40代を中心に、一日あたり数時間から、中には12時間以上も連続使用する人が増えています。特にコロナ禍以降、オンライン会議の増加に伴い、イヤホンは仕事や学習の必須ツールとなり、その使用時間はさらに延びる傾向にあります。
しかし、この長時間のイヤホン使用が、猛暑と相まって耳に深刻な影響を与えています。耳の穴がイヤホンで密閉され、汗や湿気で蒸れることで、カビや細菌が繁殖しやすい環境が作られてしまうのです。慶友銀座クリニックの大場俊彦院長は、「夏になると特にばい菌が増え、外耳炎の患者さんが急増する」と警鐘を鳴らします。実際に「耳から液体が出てきて痒みを感じた」という20代の体験談も聞かれ、これは典型的な外耳炎の症状です。
長時間イヤホンを使用している耳元。夏の猛暑下での「耳カビ」リスク増加を示すイメージ。
外耳炎が悪化すると、激しい痒みや痛みに加え、耳の中にカビが広がり「耳カビ」と呼ばれる状態になることがあります。大場院長は、カビが耳の奥深くまで入り込むと、「治療が非常に大変になり、完治までに最低でも1週間から2週間を要する」と指摘しており、放置すればさらに重篤な症状に繋がる可能性もあります。耳の健康を守るためには、早期の対処と予防が極めて重要です。
耳に優しい選択肢:「耳を塞がない」イヤホンの台頭と特徴
耳カビによる外耳炎の治療には時間と労力がかかるため、予防策として耳に負担をかけないイヤホンへの注目が高まっています。特に夏場に入り、都内の大手家電量販店では「耳を塞がない」タイプのイヤホンの売上が顕著に伸びているといいます。
その代表格が「骨伝導イヤホン」です。これは音の振動を頭の骨を通して直接鼓膜に伝えるため、耳の穴を完全に塞ぐ必要がありません。ヨドバシカメラの中浦雄太グループリーダーは、「迫力のある低音再生を実現しつつ、動いても安全で、汗や防水性能も備わっているため、スポーツをしながらでも壊れにくい設計」と、その利点を強調します。耳への物理的な圧迫が少なく、外部の音も聞き取れるため、安全性も向上します。
骨伝導以外にも、スピーカーから音が出るタイプの「耳掛けイヤホン」や、耳の縁に軽く引っかけるだけで装着できる「イヤーカフタイプ」のイヤホンも人気を集めています。これらの「耳を塞がない」イヤホンは、耳の中が蒸れるのを防ぎ、カビの繁殖リスクを低減する効果が期待できます。また、電車内などの静かな場所での使用についても、適切な音量であれば周囲に迷惑をかける心配は少ないとされています。自分の耳の健康を守るためにも、イヤホンの種類や使用習慣を見直すことが、現代社会における新たな常識となりつつあります。
結論
長時間のイヤホン使用が日常化する現代において、特に猛暑の続く時期には「耳カビ」という新たな健康リスクが浮上しています。耳の密閉による蒸れがカビや細菌の温床となり、外耳炎へと進行する危険性は無視できません。自身の耳の健康を守るためにも、定期的な耳の休息を心がけ、症状に気づいた場合は速やかに専門医を受診することが重要です。また、「骨伝導」や「耳掛け」といった「耳を塞がない」タイプのイヤホンへの切り替えは、耳への負担を軽減し、快適かつ安全に音楽やコミュニケーションを楽しむための有効な選択肢となるでしょう。この機会に、ご自身のイヤホン使用習慣と耳の健康について再考してみてはいかがでしょうか。
参考資料
- テレビ朝日「グッド!モーニング」2025年9月2日放送分
- Yahoo!ニュース (2025年9月2日) 「イヤホンの長時間使用広がり「耳カビ」注意 猛暑で耳の中が蒸れ繁殖「治療が大変」」