5月28日、NEXCO西日本、中日本、東日本の3社は、この夏に予定されていたETC深夜割引の制度見直しを延期すると発表しました。一見、適用時間帯が拡大し利便性が向上するように見えるものの、実質的な値上げであり、改悪だという声も多いこの制度変更はどんな内容なのか、また、再延期の上に開始時期が未定なのはなぜなのか、分かりやすく解説します。(ライター・プランナー 植村祐介)
● 「午前0時〜午前4時」の間にETC料金所を通過すれば運賃が3割引に
高速道路をETCで通行することにより適用される割引のうち、「ETC深夜割引」の内容が大幅に見直されることになっています。当初は2024年度内に運用開始を予定していていたのが、2025年7月に延期され、5月28日、さらに延期が発表されました(理由は後述)。
ETC深夜割引は、NEXCO各社が管理する全国ほとんどの高速道路、および宮城県道路公社の仙台松島道路が対象となる割引です。
現状の制度では「午前0時〜午前4時」の間に高速道路を通行すること、つまりこの時間の間に入口料金所もしくは出口料金所を通過すること、もしくはこの時間帯を挟んで入口料金所および出口料金所を通過することで、均一区間の走行や東京外環道と均一区間以外を連続走行する場合を除き、全区間の高速道路料金が「3割引」となります。
そのため、午前4時前に入口料金所を通る、もしくは午前0時を回ってから出口料金所を通るといった「通行料金を安くするためのテクニック」を使うドライバーが少なくありませんでした。
たとえば東名高速の東京ICから山陽道の広島ICまで普通車で走行する場合、ETCでの通常の通行料金は1万6940円です。しかし東京ICに午前3時50分に流入すれば(高速道路への流入を判定する東京本線料金所を午前4時前に通過すれば)、走行の全区間にわたって3割引が適用となり、通行料金は1万1860円と、5000円以上も安くなります。
こうした“節約術”は、一般のドライバーにも多く活用されていましたが、やはり利用の主役となったのは、運送業に従事する職業ドライバーでした。大型車はそもそも普通車よりも通行料金が高く設定されていること、また長距離を恒常的に移動することから、その効果はより大きくなるからです。
● 深夜の高速道路で起きる異常な光景
しかしこの節約術に起因する現象が、大きな問題としてクローズアップされることになります。それは午前0時前に頻発する、高速道路本線上での車両の滞留です。
スムーズに走れば出口料金所の通過が午前0時より前となる状況で、あえて時間調整して午前0時を待って料金所を通過し、深夜割引の適用を受けようというドライバーが多く現れたのです。
たとえば東名高速では、午後11時40分くらいから上り線の東京料金所手前の路肩に停車するトラックが現れ、時間の経過とともに、路肩は徐々に縦列駐車で埋まっていきます。そして午前0時が近づくと、路肩の停車は二重、三重になり、最終的には三車線ある本線までがすべて「午前0時を待つトラック」で埋まってしまう、異様な光景となります。この状況が、毎晩繰り返されているのです。
もちろん、トラックのドライバーも「できればSAやPAに駐車して時間を使い、午前0時を待ちたい」という思いのはずです。
しかし東京料金所のすぐ手前にある上り線の港北PAには大型車の駐車スペースは20台程度で、多数のトラックが停まる余裕はありません。その手前にはより規模の大きな海老名SAがありますが、東京料金所までは30kmほどの距離がある上、こちらも午後10時を過ぎると時間調整のトラックで混雑することが常態化しています。