【解説】ウクライナの大胆なドローン攻撃、ロシアと西側に重要メッセージ


ウクライナが1日に発表したロシア全土への一斉ドローン(無人機)攻撃が、どれだけ大胆不敵で、かつどれだけ見事な発想によるものか、強調しすぎてもしすぎるということはない。ウクライナはドローンを使い、ロシア空軍をロシア国内でたたきに行ったのだ。

自分たちの攻撃でロシア側に70億ドル相当の損害を与えたというウクライナの主張を検証するのはとうてい無理だが、ウクライナの「クモの巣」作戦は、どれだけ少なく見積もっても、プロパガンダ作戦という意味では明らかに素晴らしい大成功だった。

ウクライナの人たちは早くも、ロシアの全面侵攻が始まって以降のさまざまな軍事上の成功に比較して、今回のドローン作戦を語っている。比較の対象としてあげられるのはたとえば、2022年4月の黒海艦隊旗艦モスクワ沈没や、同年10月のケルチ橋爆発、2023年9月のセヴァストポリ湾ミサイル攻撃などだ。

ウクライナ保安庁(SBU)が報道機関にリークした詳細から判断すると、今回の作戦はこれまでで最も手の込んだものだった。

準備に1年半かかったと言われるこの作戦では、多数の小型ドローンがロシアに運び込まれ、特別な箱に収納された状態で貨物トラック内に保管され、それぞれ数千キロ離れた少なくとも4カ所の場所まで運ばれ、そこから近くの空軍基地に向け、遠隔操作で発射された。

「こんなことをやってのけた情報作戦は、かつて世界のどこでも、まったくなかった」と、アナリストのセルヒイ・クザン氏はウクライナのテレビに話した。

「(ドローンが破壊したロシアの)戦略爆撃機は、長距離攻撃で我々を襲うことができるある。(中略)わずか120機しかないうちの40機を攻撃した。これは、とんでもない数字だ」

被害の実態を把握するのは難しい。しかし、ウクライナの軍事ブロガー、オレクサンドル・コヴァレンコ氏は、仮に爆撃機や指揮統制機が破壊されなかったとしても、今回の攻撃による影響は甚大だと話す。

「現在のロシア軍産複合体が、近々にそれを復旧できる可能性は低い、それほどの被害だ」と、コヴァレンコ氏は自分のテレグラム・チャンネルに書いた。

コヴァレンコ氏はその理由として、標的になった戦略ミサイル搭載爆撃機、Tu-95、Tu-22、Tu-160は既に生産が終了しており、修理は困難で、代替機の調達は不可能だからと語る。

特に、超音速戦略爆撃機Tu-160の喪失は、影響が大きいはずだという。

「ロシア航空宇宙軍は今日、最も希少な航空機2機を失っただけでない。まさに、希少なユニコーンを2頭失ったようなものだ」

こうした軍事アナリストが言うほど、実際の被害はもしかすると大きくないのかもしれないし、あるいは本当にそれほどの大被害なのかもしれない。いずれにしても、「クモの巣」作戦はロシアにだけでなく、ウクライナを支援する西側同盟諸国にも、重大なメッセージを発信した。

私の同僚で、BBCウクライナ語サイトで記事を書いているスヴャトスラフ・ホメンコ記者は、ウクライナの首都キーウで最近、政府関係者と会った際のことを振り返る。

この役人はイライラしていたのだそうだ。

「アメリカは、こちらがすでに戦争に負けたと思い込んでいる。それが最大の問題だ」と、この政府関係者はホメンコ記者に話した。「そしてその思い込みから、ほかのあらゆることが続く」のだと。

ウクライナの防衛ジャーナリスト、イリア・ポノマレンコ氏はソーシャルメディア「X」に、「攻撃されている誇り高い国が、『ああウクライナはもう6カ月しかもたない』とか、『君は切り札を持ってない』とか、『ロシアは絶対に負けないから、平和のために降伏しろ』とかやたら言われても、耳を傾けないでいると、こういうことが起きる」と書いた。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領とドナルド・トランプ米大統領が2月末にホワイトハウスの大統領執務室で繰り広げた、悪名高い口論を踏まえての内容だというのは、はっきりしている。

季刊誌「ビジネス・ウクライナ」はさらに簡潔に、かつ誇らしげに、イラスト付きで投稿した。「実はウクライナには切り札があった。ゼレンスキーは今日、ドローンのキングを切ったのだ」(編注:「ドローンのキング札」は英語では「キング・オブ・ドローンズ」。人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」と、かけていると思われる)。

つまり、クレムリン(ロシア大統領府)の代表団と新しい停戦交渉のためにイスタンブールに到着したウクライナ代表団は、「ウクライナはまだまだやるぞ」というメッセージを携えていたのだ。

私の同僚のホメンコ記者に話をしたウクライナ政府関係者は、「(アメリカは)まるで一番ゆるい降伏条件に同意するよう、我々を説得することこそ自分たちの交渉上の役割だとでも言うように、ふるまい始めている」と話したそうだ。

「それでいて(アメリカは)、こちらが感謝しないと怒り出す。しかし、もちろんこちらは感謝などしない。自分たちが負けたとは信じていないからだ」

ロシアはドンバスの戦場でゆっくりと、しかし容赦なく着実に進撃している。それでもウクライナはロシアと、そしてトランプ政権に告げている。ウクライナの今後の展望をそうそう簡単に否定しないようにと。

(英語記事 Ukraine’s audacious drone attack sends critical message to Russia – and the West)

(c) BBC News



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