「ロシアのムルマンスクで組立式木造住宅4軒の注文を受けたので、これを搬送してほしい」。ロシア東部シベリアの関門都市チェリャビンスクに住むロシア人トラック運転手アレクサンドル氏(55)は先日、アルティオム氏(37)という事業家と会った。アルティオム氏はトラックで約3100キロ離れた西北団ムルマンスクまで組立式木造建物を運んでほしいと依頼した。
運賃に合意した後、アレクサンドル氏は「貨物」をアルティオム氏所有のトラックに載せて出発した。運転中に知らない人が電話をかけてきて「いつ、どこに」トラックを駐車すればよいのか具体的に指示した。アレクサンドル氏が1日(現地時間)、最終定着地に指定されたムルマンスク軍飛行場付近のガソリンスタンドにトラックを停車すると、突然「貨物」の屋根が開いて無人機(ドローン)が飛び立った。
別のロシア人トラック運転手アンドレイ氏(61)も似たことを経験した。アンドレイ氏もアルティオム氏という事業家の依頼でトラックを運転してイルクーツク地域まで組立式住宅を運ぶ仕事を引き受けた。同日、予定通りカフェ近くにトラックを駐車すると、トラックからドローンが飛び出した。
ロシア本土を狙ったウクライナの大規模ドローン攻撃の顛末が少しずつ表れている。ウクライナ軍は最前線から4300キロ以上離れたロシア東部シベリア・イルクーツクのベラヤ基地など4カ所の空軍基地をドローンで打撃した。ウクライナ側によると、今回の攻撃でロシア軍はTu-160、Tu-95など70億ドルにのぼる41機の戦略爆撃機を失った。
「クモの巣」と命名された今回の秘密軍事作戦では、トラックの運転手に運送を依頼したアルティオム氏という人物が目を引く。アルティオム氏との契約に基づいて木造住宅を運んだところ、屋根が開かれ、ドローンが一斉に飛び立ったというのが共通した証言だ。ドローンが飛ぶのを目撃したロシア人は石を投げたが、これを防ぐには力不足だった。
ロシア捜査当局はアルティオム氏をウクライナ人と断定し、彼の所在を追跡している。ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアへの攻撃を支援したすべての人は作戦開始前にロシア領土から撤収し、現在安全だ」と話した。ロシアは旧ソ連時代からウクライナに対して同化政策を進め、多くのウクライナ人がロシア語を流ちょうに話す。
ロシア軍に詳しいテレグラムチャンネルBAZAによると、今回の事件に関連して疑問のトラック爆発事故もあったという。シベリアの高速道路(チタ-ハバロフスク)で先月31日、コンテナ貨物で火災が発生した。トラックの運転手ワシリー氏(62)が鎮火のために貨物の内部に入ったが、爆発が起きて即死したという。BAZAは「ウクライナ保安局(SBU)が動員した貨物と非常に似ていた」とし「近隣のアムール州の空軍基地もウクライナの攻撃目標だったとみられる」と伝えた。
ロシア当局はチェリャビンスクでウクライナが今回の作戦に使用した倉庫を発見した。ドローンはこの倉庫で組み立てられたと推定している。月35万ルーブル(約64万円)で賃貸に出たところだ。
ドローン運用方式は今回の作戦の最大ミステリーだ。一人称視点(FPV)ドローン117機を遠隔操縦して目標物を打撃したとウクライナは明らかにしたが、FPVドローンは通常20キロ程度が運用距離の限界だ。CNNは消息筋を引用し「(米国のスペースXが運営する)スターリンクでなくロシアの移動通信網を利用して操縦したようだ」と伝えた。新アメリカ安全保障センターのサミュエル・ベンデット研究員は「ドローンが上空に飛行するまではあらかじめプログラムしておき、その後はロシア移動通信網で操縦したようだ」とキーウインディペンデントに話した。
ロシア側の油断も作戦の成功要因に挙げられる。ウクライナから遠く離れた基地いう理由で「ロシア爆撃機が飛行場にそのまま置かれていて、グーグルマップなど公開衛星イメージでも位置を確認できる状態だった」(CNN)という。ロシアのレーダーと防空体系はドローンのような低高度攻撃に脆弱だ。ウクライナ軍の攻撃当時、唯一の対応手段といわれる重機関銃の対空射撃もなかったという。CNNは「ロシアが国境の向こう側でなく目標物のすぐそばからドローンを発射して攻撃することを予想できなかったため」と指摘した。
こうした中、トルコのイスタンブールで2日に開かれたウクライナとロシアの2回目の休戦交渉は特に成果なく1時間で終わった。双方は戦争捕虜と戦死者の遺体の交換に合意しただけという。