6月はプール開きのシーズンを迎えますが、思春期を迎えた中学生にとっては憂鬱な時期となることも少なくないようです。近年、公立中学校でプールの授業を取りやめる自治体が増加しており、専門家は、その背景には単に施設の老朽化だけでなく、ジェンダーの問題も大きく影響していると指摘しています。
中学校プール授業廃止の現状と背景
中学校のプール授業のあり方が変化しています。自治体によっては、長年行われてきた水泳の実技授業を廃止し、座学や他の形式に切り替える動きが見られます。この変化の背景には複数の要因がありますが、専門家が特に注目しているのは、生徒側の意識の変化、中でもジェンダーや体形に関する問題です。
教員が見る「プールに入りたがらない」生徒たち
NPO法人School Voice Projectが2022年に行ったアンケート調査からは、中学校の教員たちの現場での声が寄せられています。多くの教員が、水泳の授業に参加したがらない生徒が年々増えていることを実感しており、「体形を他の生徒に見られることを嫌がる生徒が多くなっている」「『生理だから』と嘘をついてプールに入らない女子生徒がいる」といった声が上がっています。さらに、男女一緒のプール授業に対する生徒からの抵抗感や、セクハラに対する教員側の認識不足を指摘する声もあり、指導現場での課題が浮き彫りになっています。
中学校のプールで行われている水泳授業の様子
[internal_links]
実践から座学へ:岩手県滝沢市の事例
岩手県滝沢市では、今年度から市立中学校全6校で水泳の実技授業を全面的に廃止しました。その代わりに、水難事故対策を中心とした座学に切り替えています。同市教育委員会の担当者によると、この方針転換について、生徒や保護者からの問い合わせは全くなく、理解が得られたものと認識しているとのことです。コロナ禍以降、同市では健康面の配慮からプール授業での「無理強いはせず」、本人や保護者の意向を尊重する姿勢を取ってきました。
欠席者急増と多様な理由
滝沢市でプール授業を廃止するに至った背景には、急速な欠席者の増加があります。ある大規模校では、2023年度に実施されたプール授業において、延べ生徒数4392人のうち36%にあたる1602人が授業を欠席しました。欠席理由としては、体調不良や塩素アレルギーなども挙げられますが、近年増加傾向にあるのがジェンダーに起因する理由です。「肌を露出するのが嫌」「水着姿になるのが恥ずかしい」といった声は、男女を問わず多くの生徒から聞かれるようになっていると同市教委の担当者は語っています。
まとめ
中学校のプール授業が減少している背景には、施設の老朽化という物理的な問題に加え、思春期の生徒たちが抱える体形やジェンダーに対する意識の変化が大きく関わっています。水着姿を人に見られることへの抵抗感や、男女共習への戸惑いなど、生徒たちの心理的な負担が増大している現状があります。滝沢市のように実技授業を廃止し、水難事故対策などの座学に切り替える動きは、このような生徒たちの声や社会の変化に対応した一つの形と言えるでしょう。今後の学校教育において、水泳指導の目的や方法、そして生徒一人ひとりの多様な事情への配慮が、改めて問われています。
[internal_links]