近年、テレビドラマ界で昭和初期を舞台にしたロマンスが注目を集めています。特に、フジテレビ系の『波うららかに、めおと日和』とNHKの連続テレビ小説『あんぱん』は、その純粋で不器用な恋愛模様が若い世代の女性たちの間で「キュンとする」と大きな話題を呼んでいます。なぜ今、このような昭和ロマンスドラマが人気なのでしょうか?
『波うららかに、めおと日和』と『あんぱん』:昭和初期の恋愛ドラマブーム
『波うららかに、めおと日和』の魅力
SNS上で女性たちの心をとらえているドラマの一つが、フジテレビ系の『波うららかに、めおと日和』です。昭和11年を舞台に、主人公なつ美(芳根京子)が見ず知らずの夫、瀧昌(本田響矢)のもとに嫁ぎ、新婚生活を送るラブコメディとなっています。TVerでの春ドラマお気に入り登録者数は、他の人気ドラマに次ぐ101.3万人(5月29日時点)を記録しており、その人気の高さがうかがえます。ドラマウォッチャーのカトリーヌあやこさんは、「『めおと日和』のように、昭和初期の恋愛を丁寧に描くドラマは今まで民放であまり見られず新鮮で、若い女性たちもハマっています」と分析します。
『あんぱん』で描かれる多様な恋愛模様
一方、NHKの連続テレビ小説『あんぱん』も、昭和10年代を舞台にした恋愛が深く描かれています。ヒロインのぶ(今田美桜)は、嵩(北村匠海)、千尋(中沢元紀)、次郎(中島歩)といった複数の男性から思いを寄せられ、最終的に次郎とお見合い結婚をします。また、のぶの妹である蘭子(河合優実)と豪(細田佳央太)の長年の恋の成就、そして戦死という悲劇、三女メイコ(原菜乃華)と健太郎(高橋文哉)の間の恋心など、様々な形の恋愛が展開されます。SNS上では「『あんぱん』の恋愛にキュンキュンする」といった声が多く見られます。
ドラマ「あんぱん」のぶ役の今田美桜(左)と「波うららかに、めおと日和」瀧昌役の本田響矢(右)
なぜ今、昭和初期の恋愛にキュンとするのか?
なぜ、現代の若い女性たちは、昭和初期の恋愛模様にこれほどまでに心ときめかせるのでしょうか。そこにはいくつかの理由があるようです。
レトロファッションと時代の波
カトリーヌあやこさんは、魅力の一つとして「レトロファッション」を挙げます。昭和10年代は着物や袴といった日本の伝統的な装いが日常的に見られ、現代から見ると新鮮で目の保養になると言います。特に、本田響矢さん演じる瀧昌の軍服姿は非常に格好良く、女性たちが「キュンとする」大きな要因になっているとのことです。また、この時代は第二次世界大戦という避けられない時代の波が迫っており、そのような歴史的背景がドラマに深みと切なさを加え、視聴者の心を揺さぶる要素にもなっています。
不便さが生むドラマと「やっと会えた」切なさ
現代と比べて通信手段が限られていたことも、ドラマを生む要因となっています。電話がまだ普及しておらず、手紙や電報が主な連絡手段でした。飛行機もなく、鉄道網も今ほど発達していなかったため、登場人物たちが遠距離を移動する際には多大な時間がかかりました。例えば、『あんぱん』では嵩が東京から高知へ帰るのに時間がかかり、『めおと日和』の瀧昌は海軍の任務で数か月家を空けることもあります。このような「不便さ」があるからこそ、「やっと会えた」時の喜びや切なさが際立ち、それが視聴者の感情に強く訴えかけるのです。
昭和が似合う俳優像
カトリーヌあやこさんは、昭和の時代背景には「正統派イケメン」が特に映える、と分析しています。瀧昌役の本田響矢さんもその典型で、当時の男性の一般的な髪型である七三分けなど、おでこを出すスタイルが似合う顔立ちが重要だと語ります。この時代設定では、整った顔立ちの俳優がより一層輝きを放つ傾向にあるようです。
広がるレトロブームとの繋がり
近年、若い世代の間では純喫茶巡りやフィルムカメラの利用など、昭和や平成初期の「レトロ」な文化が見直され、ブームとなっています。カトリーヌあやこさんは、このようなレトロ商品特有の「不完全さ」を愛おしいと感じる感覚が、昭和初期の恋愛ドラマで描かれる「不器用さ」に共鳴しているのではないかと推測します。情報伝達が遅く、自分の気持ちをストレートに伝えきれない、そんな昭和の「うぶで不器用な恋」の物語が、現代を生きる女性たちの心に響き、「キュン」を生み出しているのです。このような流れを受けて、今後さらに昭和時代の恋愛ドラマが注目され、一つのブームとなる可能性も考えられます。