セルフレジ普及の陰に潜む危険:巧妙な万引きとスリ被害から身を守るには

近年、日本のスーパーマーケットやコンビニエンスストアで当たり前のように見かけるようになったセルフレジ。商品のバーコードを自分でスキャンし、現金やカードで簡単に会計を済ませられる手軽さから、多くの利用者に支持されています。このセルフレジの普及は、利便性の向上だけでなく、店舗運営の効率化にも貢献していますが、その一方で新たな犯罪リスクの温床となっている実態が浮上しています。

セルフレジ普及の背景と現状

セルフレジは、会計専用のセルフ精算レジ(主にコンビニエンスストアに多い)や、カゴに入れた商品をセンサーやカメラが自動感知して精算するレジレス方式など、いくつかの種類があります。その導入の背景には、主に二つの大きな要因が挙げられます。

スーパーやコンビニに普及するセルフレジ。利用者がバーコードをスキャンし、決済している様子スーパーやコンビニに普及するセルフレジ。利用者がバーコードをスキャンし、決済している様子

一つ目は、小売業界における深刻な人手不足です。全国スーパーマーケット協会の担当者によると、スーパーの従業員は商品の補充、クレーム対応、レジ応援など多岐にわたる業務を抱えており、求人を出してもなかなか人が集まらない状況が続いています。セルフレジは、こうした従業員の負担を軽減し、レジ業務の効率化を図る上で不可欠な存在となっています。

二つ目は、コロナ禍を契機とした非接触決済への需要の高まりです。商品や現金の受け渡しによる接触を避けたいという利用者の意識変化が、セルフレジの拡大に拍車をかけました。全国スーパーマーケット協会がまとめた「スーパーマーケット年次統計調査報告書」によれば、2024年時点でセルフレジを設置している企業の割合は37.9%に上り、半数近くの企業が「新たに設置したい」「台数を増やしたい」と考えていると報告されています。このようにセルフレジは店舗と利用者の双方にとって利便性の高いシステムとして普及が進んでいます。

セルフレジが誘発する新たな犯罪手口

セルフレジの導入は店舗の効率化に貢献する一方で、監視の目が届きにくいという特性から、新たな形態の犯罪を引き起こしています。主に問題となっているのは、巧妙な万引きと利用客を狙ったスリ被害です。

「うっかり忘れ」を装う巧妙な万引き

元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏によると、セルフレジにおける典型的な万引き手口は、購入する商品の一部を意図的にスキャンせず、そのまま買い物袋に入れるというものです。監視カメラや店員によるチェックは行われているものの、実際にスキャンした商品と混ぜてしまえば、不正を見抜くのは非常に困難なのが実情です。

チェーンストアなどが参加する全国万引犯罪防止機構が、ドラッグストアとスーパー計5社を対象に行ったセルフレジの不正に関する聞き取り調査では、昨年1年間で約2000件もの被害が報告されており、その深刻さが浮き彫りになっています。これは、利便性の裏側で店舗が抱える新たなセキュリティ課題を示唆しています。

精算時の隙を狙うスリ被害

万引きだけでなく、セルフレジの利用客自身が被害に遭うケースも発生しています。流通ジャーナリストは、「セルフレジで精算している間、利用客がカゴの横に財布を置いてしまいがち」であると指摘します。この無防備な状態を狙ったスリ被害が千葉県で実際に報告されています。

この種のスリ被害は、店舗ではなく利用客が直接的な被害者となるため、店舗側が万引きほど真剣に対応してくれないケースも少なくありません。セルフレジの利用中は、精算に集中するあまり周囲への注意が散漫になりがちですが、自身の貴重品管理には一層の注意が必要です。

利用者が知るべきリスクと防衛策

セルフレジは現代の買い物において欠かせない存在となりつつありますが、その利便性の裏には、万引きやスリといった新たな犯罪の危険が潜んでいることを認識することが重要です。私たちは、これらのリスクから自身や店舗を守るために、以下の点に留意し、適切な防犯対策を講じる必要があります。

  • 商品のスキャン漏れを徹底確認する: 意図的でなくてもスキャン漏れは問題となり得ます。精算時には、すべての商品が正しくスキャンされたかを確認しましょう。
  • 貴重品は肌身離さず管理する: 財布やスマートフォンなどの貴重品は、精算中であってもカゴの横やレジ台の上に無造作に置かず、常に身につけるか、手の届く範囲で厳重に管理しましょう。
  • 周囲への警戒を怠らない: 精算中はつい手元に集中しがちですが、常に周囲に不審な人物がいないか、不自然な動きがないかなど、軽く見回す習慣をつけましょう。
  • 不審な行為を発見したら店員に報告する: もしセルフレジで不審な行動をしている人を見かけたら、直接声をかけるのではなく、速やかに店員に報告しましょう。

セルフレジがもたらす恩恵を享受しつつ、安全で安心な買い物を続けるためには、私たち利用者一人ひとりの防犯意識の向上が不可欠です。便利さの裏に潜む「落とし穴」を忘れず、常に警戒心を持って行動することが、自身と社会の安全を守る第一歩となります。

参考文献

  • 新潮社「週刊新潮」2025年8月28日号
  • 全国スーパーマーケット協会「スーパーマーケット年次統計調査報告書」
  • 全国万引犯罪防止機構
  • 小川泰平氏 (犯罪ジャーナリスト、元神奈川県警刑事)
  • 流通ジャーナリスト