かつての農政トップが「コメは買ったことがない」と笑い飛ばす──鹿児島での野村哲郎元農相の発言は、ただの失言では済まされない。高騰する米価に苦しむ国民を尻目に、旧態依然の農協制度と自民党農水族による利権支配の実態が、改めて浮き彫りになった。小泉進次郎農相による備蓄米の流通改革には民間から支持が集まる一方、制度を守る側の抵抗は根深い。いま必要なのは、形式主義や密室政治の打破ではないか。経済誌プレジデント元編集長・小倉健一氏が鋭く斬る、農協と政治の癒着構造とは。
小泉進次郎農相に「党に相談がなかった」として苦言
農水族とJAの劣化ぶりが、ついにここまで来た。鹿児島県で行われた国政報告会にて、野村哲郎元農相は「コメは買ったことがない」「カリフォルニア米はまずい」と笑いながら語った。国民が米価の高騰に苦しんでいる只中での発言である。農政トップ経験者が現場感覚を欠いたまま、公の場でこうした軽薄な発言を連発した事実は、単なる失言の域を超えて、制度全体の腐敗と鈍感を象徴している。
野村氏は、鹿児島県農協中央会常務理事などを務めたJA出身の自民党農水族だ。
JA出身の野村氏は、備蓄米をスーパーで放出した小泉進次郎農相に対し、「党に相談がなかった」として苦言を呈した。党内根回しの不足を問題視する姿勢は、意思決定のスピードと透明性を求める現代の行政運営に逆行するものであり、既得権益層による統治慣行の復権を公言しているようなものだった。小泉農相の反論「すべて党に諮っていたら何もできない」は、形式主義に凝り固まった農政官僚的感覚へのまっとうな批判であり、国民目線で支持されるべき発言である。
今回の備蓄米放出に関しては、民間側からも強い支持が寄せられている。ディスカウント大手のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(ドン・キホーテ)による意見書では、米流通における構造的な非効率性と価格高騰の背景が明確に指摘された。一次問屋がJAと特約的な関係で固定されており、新規参入が阻まれている現実。多重構造により五次問屋まで存在し、各段階でマージンが重ねられるため、消費者が払う価格は過度に高騰している。これを是正するには、中間構造を解体し、JAとの直接取引や透明な価格開示を前提とした競争導入が必要だとドンキは提言している。