塾業界で長年の経験を持つ中学受験PREXの渋田隆之塾長と、人気学習塾VAMOS代表の富永雄輔氏が、過去30年間の中学受験の変遷について対談した。本記事では、社会の大きな波を受けながら変化し続けてきた中学受験の「今」を、両氏の視点から探る。何が変わり、何が変わらなかったのか。
中学受験の専門家である渋田隆之氏と富永雄輔氏が対談する様子
中学受験を取り巻く社会事象の影響
渋田氏によると、この約30年間、中学受験は数々の社会事象に翻弄されてきたという。1995年の地下鉄サリン事件発生後には電車通学への不安から受験者数が減少し、2002年のゆとり教育開始は受験者増に繋がった。その後も、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災(特に臨海部の学校で顕著)、そして近年ではコロナ禍が受験者数の増減に影響を与えてきた。こうした外部環境の変化に対し、私立学校は懸命に対応し、その多くが存続している。
学校数の激増と広がる選択肢
この30年で最も顕著な変化の一つが、中学入試を行う学校の激増である。渋田氏が受験指導を始めた1992年頃は約200校だったが、2007年には約250校、そして現在では300校を超えている。かつては存在しなかった東京都立小石川中や横浜市立南高等学校附属中のような公立中高一貫校も登場し、多様な選択肢が生まれた。高校募集を停止し中学教育に注力する学校や、広尾学園、三田国際科学学園、中央大学附属横浜といった新しいコンセプトの学校も増えている。富永氏は、こうした選択肢の増加が、偏差値だけで学校選びをするのを難しくしていると指摘。数字に過度にこだわる層と、逆に全く気にしない層への二極化が進んでいる現状に言及した。
偏差値の真の意味と向き合い方
富永氏の指摘に対し、渋田氏は「偏差値は学校のステータスを示すものではなく、あくまで『その模試の、その問題への適応度を示す数字』にすぎない」と強調する。特定の模試形式や問題への適応能力が高い生徒が高い偏差値を出すのであり、これは必ずしも入試本番での実力や合格可能性と直結しない。直前に特定の模試の過去問や予想問題だけを解くといった「ドーピング」によって偏差値を一時的に上げることも可能だが、それは付け焼き刃に過ぎない。両氏は、表面的な数字に振り回されず、偏差値の持つ限定的な意味を理解し、子供にとって最適な学び舎を見つけるためのバランス感覚の重要性を訴えた。
まとめ
過去30年間、中学受験を取り巻く環境は、地下鉄サリン事件、ゆとり教育、経済危機、自然災害、パンデミックといった社会の大きな波に揺さぶられながら、大きく変貌を遂げた。特に、中学入試を行う学校数の劇的な増加と公立中高一貫校の登場は、受験生家庭に多様な選択肢をもたらした。しかし、こうした変化の中にあっても、偏差値という数字が持つ真の意味を理解し、数字だけに依存しない学校選びの重要性は変わらない不変の真実として存在する。専門家は、情報過多の時代だからこそ、本質を見極め、子供の将来にとって本当に価値ある選択をするための視点を持つことが求められていると示唆した。
出典:ダイヤモンド・オンライン (Yahoo!ニュースより)