南米沖で横行する中国の違法漁業:「闇のネットワーク」が資源を枯渇させる

南米沖の広大な海域で、中国をはじめとする遠洋漁業船による違法操業が深刻化しています。特に、監視の目が届きにくい公海や他国の排他的経済水域(EEZ)内で横行するこの違法漁業は、現地の海洋資源を枯渇させ、沿岸漁業に依存する人々の生計を脅かしています。この問題の背景には、巧妙に組織化された国際的な「闇の漁業ネットワーク」の存在があると、ワシントンDCに拠点を置く非営利団体C4ADSの新たな報告書が明らかにしました。

南米沖で深刻化する違法操業とその影響

世界の遠洋漁業船の約60%を中国と台湾が占める中、特に中国漁船は、南米諸国の排他的経済水域(EEZ)内での違法操業が強く批判されています。これらの船団の主なターゲットは、ペルー沖のアメリカオオアカイカやアルゼンチン沖のアルゼンチンアカイカといった、商業的に価値の高い海洋資源です。船舶位置情報システム(AIS)を意図的に停止させ、いわば「暗闇」状態で違法操業を行うことで、監視網を掻い潜り、南米の漁業資源を根こそぎ奪っています。これは現地漁師たちの生計を直接脅かす深刻な問題です。

C4ADSの分析によれば、太平洋や大西洋で活動する遠洋イカ漁船の実に69%が、過去に違法行為やその懸念が指摘された船やその所有者と関連があったとされています。これらの海域は理論上、地域漁業管理機関(SPRFMO)などの監視下にありますが、現実には取り締まりが追いついていません。特に大西洋側では、効果的な監視の枠組みすら存在しない状況です。さらに、これらの船は港に寄港する頻度を極力抑えるため、違法操業の実態把握や取り締まりは一層困難になっています。

南米沖で違法操業が疑われる中国の遠洋漁業船南米沖で違法操業が疑われる中国の遠洋漁業船

「闇のネットワーク」を支える支援船と中国企業の関与

こうした広範囲にわたる違法操業を可能にしているのが、海上に構築された「闇の漁業ネットワーク」の存在です。特に重要な役割を果たすのが冷凍運搬船(リーファー)です。これらの船は、操業中の違法漁業船と洋上で接触し、漁獲物を積み替えたり、燃料や食料、乗組員を供給したりします。この洋上での積み替え(トランスシップメント)によって、漁船は港に寄港することなく長期間海上に留まることができ、漁獲物の出所や船内での労働搾取の実態などを隠蔽することが容易になります。冷凍運搬船は、「寄港国措置協定」のようなIUU漁業防止のための国際協定に加盟していない国の港で荷揚げを行うケースが多く、ここでも監視の目が届きにくい状況が生まれます。

このネットワークにおいて、中国企業の存在感は極めて顕著です。洋上での積み替え件数の約90%が中国資本の冷凍運搬船によって行われ、さらにそのうちの72%をわずか15隻の中国所有冷凍運搬船が担っていました。これらの多くは、実質的な所有者を隠すために便宜置籍船として他国に船籍を登録しています。タンカーによる洋上での給油も、漁船が長期間操業を続ける上で不可欠な要素です。給油記録が報告されないことが多く、これも追跡を困難にしています。C4ADSは、こうした支援船の一部が、物流や運営全体の調整まで担う「洋上漁業基地」として機能している可能性を指摘しています。

C4ADSの報告書が明らかにした南米沖の違法漁業を巡る「闇の漁業ネットワーク」は、中国遠洋漁業船と支援船が連携し、海洋資源乱獲と監視逃れを組織的に行っている現状を示しています。この問題への対処は、南米諸国だけでなく、国際社会全体の喫緊の課題であり、透明性と持続可能性の高い漁業慣行の確立が求められています。

【参考文献】
C4ADS報告書