本記事は【コメの流通経路は「際立って前時代的」と「ドンキ」社長が喝破…「小泉大臣」方式の圧倒的なスピード感に「これまで遅かったのは誰のせい?」】からの続きである。日本の食料安全保障において重要な役割を担う備蓄米の動向が注目される中、2025年6月1日、共同通信は衝撃的なスクープ記事を配信した。それは、「【独自】備蓄米放出で倉庫収入消失 月4億6千万円、廃業検討も」と題され、大量の備蓄米放出が保管を担う倉庫業界に深刻な影響を与えている現状を明らかにしたものだ。備蓄米の放出は本来の目的を果たす行為であるにも関わらず、それが事業者の経営を揺るがしかねない制度設計になっているという事実は、多くの人々に驚きをもって受け止められている。
共同通信のスクープ詳報:備蓄米放出による倉庫への打撃
共同通信の報道によると、国が備蓄するコメのうち、60万トンを超える量が市場に放出される見通しだ。この大量放出により、全国各地の保管倉庫では、東京ドーム約8個分にも相当する広大なスペースが空くこととなる。その結果、倉庫会社がこれまで受け取ってきた備蓄米の保管料が、1カ月あたり約4億6000万円も失われる見込みだという。記事は、この大幅な収入減により、経営継続が困難となり、「廃業を検討する事業者もある」と伝えている。これは、備蓄米の保管という公共性の高い事業が、いかに特定の制度と収入構造に依存しているかを示す事例と言えるだろう。
コメ政策や食料安全保障について語る農水大臣時代の小泉進次郎氏
読者の反応と制度への疑問
共同通信のスクープ記事はネット上でも広く拡散され、X(旧Twitter)などのSNSでは様々な意見が交わされた。多くの読者が特に驚いたのは、「倉庫に備蓄米が保管されていないと、倉庫会社は収入を得られない」という制度設計の仕組みを初めて知ったという点だった。これでは、豊作時の調整や災害・凶作時の供給安定のために備蓄米を放出すればするほど、保管を請け負う倉庫会社は経営難に陥りかねないという矛盾が生じる。SNS上では、「備蓄米は放出するのが本来の使い方なのだから、放出して破綻はおかしい」「倉庫会社には備蓄米の保管料ではなく、倉庫自体のレンタル料を支払うべきだ」「備蓄米の保管は民間委託ではなく、国営の倉庫で行う方が合理的ではないか」など、備蓄米を放出しても倉庫会社が困窮しないような抜本的な制度改革を求める声が多数を占めた。現在の仕組みに対する根強い疑問が浮き彫りとなった形だ。
備蓄米保管を担うJAの知られざる実態
そうした状況下で、備蓄米を預かる倉庫の「かなりの数」を、日本の農業において絶大な影響力を持つ農業協同組合(JA)が運営しているという事実は、あまり広く知られていないかもしれない。日本経済新聞の電子版は2024年1月31日の記事で、「備蓄米100万トン、維持費は年478億円 低温倉庫で保管」と報じた際、備蓄米が「各地のJAなどにある低温倉庫で保管される」と伝えている。また、読売新聞の編集委員も自身のXで備蓄米の大量放出問題に触れ、「備蓄米の在庫が減れば1万トンあたり年1億円の血税を払ってきた倉庫費用が浮く」と指摘しつつ、「備蓄米の多くを保管してきたJAは収入減で困るだろう」と投稿していた(註)。国の非公表方針により正確な場所は不明だが、新聞記事データベースを調べると、JAの倉庫が備蓄米保管を担っていることを示唆する複数の報道が見られる。例えば、東北地方のJAが低温保存可能な倉庫を新設した際に「備蓄米を保管することも計画」と報じられたケースや、上越地方のJA低温倉庫が一般開放され、ガイドツアーで見学者に備蓄米の保管状況を説明した例、さらには首都圏のJA倉庫で火災が発生し多量の備蓄米が焼失した事故なども報じられている。もちろん、JA以外にも物流事業者など、民間企業が備蓄米保管を引き受けているケースもあるが、JAがコメの集荷・保管において中心的な役割を担っていることは明らかだ。
JAの倉庫能力と遅延する流通:矛盾への再注目
考えてみれば当然のことだが、JAは地域で生産されたコメの集荷から流通までを担うため、保管用の倉庫整備は重要な事業基盤である。特に近年は、品質保持のために最新型の低温管理倉庫を整備するJAも多い。そうした高度な保管能力を持つJAが、大量の備蓄米保管を請け負っていることは、その機能からすれば理にかなっていると言える。そして、だからこそ改めて注目が集まるのが、前編で触れた「江藤米」のような特定のコメの流通が、なぜこれほどまでに遅れたのかという疑問だ。十分な保管能力と物流網を持つはずのJAが深く関わる備蓄米の放出とその影響、そして以前指摘された特定のコメの流通の遅れ。これらの点が結びつくことで、現在の国のコメ制度や流通経路、そしてその中でJAが果たしている役割と効率性について、より深く掘り下げた議論が必要とされている現状が浮かび上がる。
韓国のスーパーに並ぶコシヒカリ米
【註】筆者による確認に基づきます。
【参考資料】
共同通信 備蓄米放出で倉庫収入消失 月4億6千万円、廃業検討も (2025年6月1日)
日本経済新聞電子版 備蓄米100万トン、維持費は年478億円 低温倉庫で保管 (2024年1月31日)
読売新聞編集委員 X投稿 (日付は確認による)
過去の新聞記事データベース検索結果 (JA倉庫と備蓄米保管に関連する報道)