社会の闇を映し出す韓国ドラマ:徴兵制と腐敗を描く秀作二選

近年、エンターテイメントとしてだけでなく、社会のリアルな問題に深く切り込む韓国ドラマが世界的に注目を集めています。特に、若者に課される徴兵制の過酷な現実を描いた『D.P. -脱走兵追跡官-』や、企業と政治の根深い腐敗を描く復讐サスペンス『埋もれた心』は、そのメッセージ性の強さから高い評価を得ています。これらの作品は、単なるフィクションに留まらず、韓国社会が抱える構造的な問題や人間の尊厳といった普遍的なテーマを私たちに問いかけます。

『D.P. -脱走兵追跡官-』:隠蔽された徴兵制の真実

韓国の男性に課される兵役義務は、多くのドラマや映画でも描かれてきました。しかし、『D.P. -脱走兵追跡官-』は、その中でも特にリアルで、隠蔽されがちな軍隊内部の闇、いじめ、不条理な規律、そしてそこから逃れようとする脱走兵たちの物語に深く切り込んでいます。主人公アン・ジュノ(チョン・ヘイン)が脱走兵を追跡する部隊「D.P.」に配属されることから物語は始まります。

D.P. -脱走兵追跡官-に主演するチョン・ヘインとク・ギョファン。徴兵制下の軍服姿で捜査する脱走兵追跡官の任務を描く。D.P. -脱走兵追跡官-に主演するチョン・ヘインとク・ギョファン。徴兵制下の軍服姿で捜査する脱走兵追跡官の任務を描く。

元D.P.の上等兵ハン・ホヨル(ク・ギョファン)とバディを組んだジュノは、様々な背景を持つ脱走兵たちと向き合う中で、彼らがなぜ軍から逃げざるを得なかったのか、その背後にある過酷な現実を知ることになります。軍隊という閉鎖的な空間で行われる非人道的な扱いや、個人の尊厳が無視される「絶対服従」のシステムが、いかに多くの兵士を精神的に追い詰めているかを描写。脱走という行為が、果たして個人の罪なのか、それとも構造が生み出した悲劇なのかを視聴者に問いかけます。チョン・ヘインとク・ギョファンの絶妙な掛け合いは、重苦しいテーマの中に人間的な温かさやユーモアをもたらし、作品に奥行きを与えています。キム・ソンギュンやソン・ソックといった実力派俳優陣が、軍隊内部の様々な立場の人々を演じ、物語にリアリティを与えています。

本作品はNetflixシリーズとしてシーズン1、2が独占配信されており、全12話(各シーズン6話)で構成されています。

『埋もれた心』:企業と政治の根深い腐敗構造

現代社会における権力構造と腐敗を描いたサスペンスとして注目されるのが、『埋もれた心』です。大山グループの役員ソ・ドンジュ(パク・ヒョンシク)は、会長からの絶大な信頼を得ながらも、ある日突然、人生の全てを失う壮絶な裏切りに遭います。この物語は、単なる個人的な復讐劇に留まらず、巨大企業と政治、そしてその裏で暗躍する権力者たちの根深い繋がりを暴き出します。

埋もれた心でソ・ドンジュ役を演じるパク・ヒョンシク。企業と政治の腐敗に立ち向かう複雑な感情を表現する。埋もれた心でソ・ドンジュ役を演じるパク・ヒョンシク。企業と政治の腐敗に立ち向かう複雑な感情を表現する。

エネルギー開発プロジェクトに関連する政府の政治資金紛失事件を発端に、ドンジュは企業内部の権力争いと、それに絡む政治家や元国家情報院長といった裏のフィクサーたちの思惑に巻き込まれていきます。信頼していた人々からの裏切り、愛する人の喪失を経験したドンジュは、怒りと悲しみを胸に、隠された真実と腐敗した構造に立ち向かうことを決意します。パク・ヒョンシクは、これまでの明るいイメージから一転、復讐心に燃える複雑な内面を持つ主人公を演じ、その演技の幅広さを見せています。ホ・ジュノ演じる元国家情報院長ヨム・ジャンソンとの対峙は、作品に緊張感をもたらしています。企業倫理、政治資金の流れ、そして権力に翻弄される個人の姿を通して、現代社会が抱える倫理的な問題を深く問いかける作品です。

本作品は全16話で、ディズニープラスのスターで独占配信されています。(C)2025 SBS & Studio S. All rights reserved.

『D.P. -脱走兵追跡官-』と『埋もれた心』は、それぞれ徴兵制と企業・政治の腐敗という異なるテーマを扱いながらも、韓国社会が直面する厳しい現実と、その中で翻弄される人々の姿を鮮烈に描き出しています。これらの作品は、単なる娯楽として消費されるだけでなく、私たちに社会の構造や人間の脆弱さについて深く考えさせられる、まさに現代の必見作品と言えるでしょう。

参照:Netflix、ディズニープラス