部下にハラスメントと受け取られないようにするには、どうすればいいのか。社会保険労務士の村井真子さんは「“部下への配慮が優れている”上司ほど、気をつけたほうがいい。よかれと思った行動が、ハラスメントになることがある。実際に、とある50代の男性部長も指摘を受けるまで気づいていなかった」という――。
【チェックリスト】“ハラスメントしている”かも…5個以上から要注意
※本稿は、村井真子『職場問題ハラスメントのトリセツ 窮地の前に自分を守る、取るべきアクションと相談のポイント』(アルク)の一部を再編集したものです。
■“配慮”が行き過ぎると「ハラスメント」になってしまう
社会保険労務士として企業のハラスメント防止研修や人事労務顧問に従事するなかで、私は組織の中で起こる「人の善意が裏目に出る瞬間」を数多く見てきました。日々よせられるハラスメント関連の相談の中でとりわけ最近増えているのが、「優しさが誤解を生むケース」です。
その典型例として職場でしばしば見られるのが“配慮の行き過ぎ”です。たとえば、子育て中や介護中の社員に対して「無理をさせないように」と業務を軽減したり、出張を外したりする上司の行動は、一見すると温かい思いやりに見えます。しかし、こうした「保護的配慮」が、本人の成長機会を奪う行為や、周囲に不公平感を与える結果につながることがあります。
ハラスメントの本質は、悪意ではなく「認識のずれ」や「善意の押しつけ」に潜んでいます。実際、最近の相談の中には、まさに“良かれと思って”の一言や対応が、部下や同僚の尊厳を傷つけ、職場の信頼関係を壊してしまった事例が少なくありません。
ここでは、その一つのケースをご紹介します。(なお、下記は実例に基づき、プライバシー保護の観点から複数の事例を組み合わせ再構成したものです。)
■“子育て社員に配慮”していたら「通報」された
A部長(50代・男性)は、部下思いで知られる上司でした。
部内では「Aさんのもとで働けるのは幸せだ」と評判で、子育て中の社員に対してはいつも残業や出張を調整し、柔軟に対応していました。A部長の口ぐせは、「子どもがいる社員には無理をさせない」。その言葉どおり、家庭を優先できるようスケジュールを組み替え、会議や出張も配慮していました。
A部長本人に悪意などまったくなく、むしろ“理想的な上司”と自認していたかもしれません。A部長だけでなく、周囲もまた、基本的にはA部長のスタンスを持ち上げる姿勢を取っていました。
しかし、その考え方に賛同できない社員もいたのです。人事部には、たびたび下記のような匿名通報が寄せられていました。
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「A部長が子育て中の人を優先するあまり、独身の私たちに仕事のしわ寄せがきています。言っていませんが、みんな不満を持っています」
「A部長の考え方はいいと思いますが、それに甘えて迷惑をかけることが当然だと思う社員もいます」
「A部長の考え方は時代錯誤でセクハラだと思います」
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人事部はこれらの通報について、A部長に面談にて紹介しました。そして、A部長の言動に思い当たることはないか、あるなら改善してほしいと伝えました。






