声を失ったダウン症の息子 アートで「ありのまま」輝く姿 個展に込めた父のメッセージ

長男がダウン症と診断された際、「普通と違う」将来に大きな不安を感じたという父親、田中伸一さん(55)。声を失った息子、彰悟さん(28)が絵画や書道で自分を表現する個展「ART THE SHOGO」が福岡市で開かれています。「生きづらさ」を抱える人々へ「ありのまま」で輝く勇気や希望を伝えたい、という父の思いを取材しました。

2023年の個展会場で笑顔を見せる田中伸一さんと息子の彰悟さん。父子の絆を象徴する写真2023年の個展会場で笑顔を見せる田中伸一さんと息子の彰悟さん。父子の絆を象徴する写真

福岡市東区に住む田中伸一さんにとって、長男の彰悟さんは特別な存在です。彰悟さんは生後1カ月でダウン症と診断され、さらに生後2カ月時の肺炎がきっかけで気管切開を行い、声を失いました。

当時、銀行員として優れた業績を上げていた伸一さんは、彰悟さんの通院などを考慮し、転勤のない職に転職後、コンサルタントとして独立しました。しかし、2008年9月のリーマン・ショックで売り上げが激減し、経済的に苦境に陥ります。

経済的な困難の中で彰悟さんと深く向き合う生活を送るうち、家族に寄り添うことが真の幸せにつながると価値観が大きく変わっていきました。言葉を交わさずとも、彰悟さんの気持ちを敏感に感じ取れるようになったのです。

その経験から得た価値観の変化と気づきは、2023年に「お父さん、気づいたね!声を失くしたダウン症の息子から教わったこと」(地湧社)として出版され、多くの読者から共感が寄せられています。

現在、書道や絵画に熱心に取り組む彰悟さんの作品は、今回で4回目となる個展「ART THE SHOGO」で展示されています。伸一さんは、「誰もが本来の自分のままで輝ける人生を生きられるという勇気や希望を、この個展を通じて少しでも感じてもらいたい」と語っており、「ありのまま」で輝く息子の姿を通して、「生きづらさ」を抱える人々へメッセージを伝えています。

書道作品に取り組む田中彰悟さん。声を失ってもアートで感情を表現する様子書道作品に取り組む田中彰悟さん。声を失ってもアートで感情を表現する様子

個展は福岡市東区香椎1のカフェ「香椎参道Nanの木」で6月30日まで開催中です。開場時間は午前10時から午後6時までで、木曜日は休館です。(電話: 092・201・2201)

田中彰悟さんのアートは、言葉を超えた力強いメッセージを放ちます。父、伸一さんの活動は、障害の有無に関わらず「ありのまま」の自分を肯定し、輝くことの大切さを教えてくれます。ぜひ会場で父子の思いを感じてください。

[出典] 毎日新聞