東京都墨田区の静かな下町に、103歳にしてなお現役で自転車修理に励む職人、石井誠一さんがいる。13歳でこの道に入り、90年もの長きにわたり自転車と共に歩んできた石井さんは、「生涯現役」を掲げ、日々店の切り盛りを続けている。「日本ニュース24時間」では、そんな石井さんの現在の生活、仕事への情熱、そして健康と長寿の秘訣に迫る。
「好きじゃなきゃ続かない」90年の職人人生
東京の隅田川沿いに位置する東武スカイツリーライン鐘ヶ淵駅から徒歩5分。昔ながらの風情が残る一角に、石井さんが営む「石井サイクル」がある。店主の石井誠一さんは、103歳となった今も「自転車をいじっている時が一番楽しい」と笑顔で語る。34年前に妻の千恵子さんを亡くして以来、一人で店を守り続けてきた。
1922年（大正11年）5月、東京・神田で3人兄弟の長男として生まれた石井さん。同い年には、漫画家の水木しげるさんや小説家の瀬戸内寂聴さんといった著名人がいる。「昔から自転車の修理を見るのも、いじくり回すのも好きだった」という石井さんは、高等小学校を1年で中退し、13歳で「手に職をつけよう」と自転車修理の道へと飛び込んだ。
しかし、その2年後には日中戦争が勃発。1943年には中国へ出征し、敵の補給路を断つための激しい銃撃戦を経験した。終戦後、捕虜となり日本に帰国したのは、終戦から約1年後の1946年6月のことだった。工場勤務などを経て、再び自転車修理の世界に戻った石井さんは、1956年（昭和31年）にこの地で「石井サイクル」を開業した。「工場勤務は全く向いてなかった。その時、『やっぱり俺は自転車屋だな』って思ったんだよ。いくら儲かったって、好きじゃないと続かない。自転車修理は俺の天職なんだ」と、その時の思いを振り返る。
自転車を修理する103歳の石井誠一さん
103歳の日常：日課の焼酎と「北の漁場」
103歳という高齢ながらも、大病を患うことなく、日曜日と正月の三が日以外は毎日午前7時から午後6時まで店を開け続ける石井さん。その規則正しい生活サイクルを聞いてみると、「朝起きたら、トイレに行って洗濯物干して、朝ごはんの支度を済ませてから来客が来たら対応する毎日だよ。それで仕事が終わったら、BSで歌番組を見ながら焼酎を1杯飲むのが日課だな」と語る。
石井さんの趣味はカラオケだ。休日はテレビで「NHKのど自慢」を見た後、自転車で15分ほど走った先にある行きつけのスナックへ。そこで4時間滞在し、北島三郎、吉幾三、田端義夫などの持ち歌を20曲ほど熱唱するのが恒例の「休日ルーティーン」となっている。特に「北島三郎の歌が一番こぶしが利いていて、いいんだよ」と話し、十八番は北島三郎の『北の漁場』だという。
2013年、北島三郎が通算50回目の出場を機に、後進に道を譲るとして年末のNHK紅白歌合戦からの引退を表明したことについて、もう一度紅白に出てほしいかと尋ねると、「いや、もう出なくていいよ。今さら無理に引っ張り出しても可哀そうだ。年を取っていくと声も出なくなっていくし…。でも今だったら俺のほうが上手く『北の漁場』を歌えるかもしれないぞ」と満面の笑みで自信をのぞかせた。
結び
103歳にしてなお、90年間情熱を傾け続けた仕事に打ち込み、趣味を謳歌する石井誠一さんの姿は、私たちに「生涯現役」の素晴らしさと、人生を豊かに生きるためのヒントを与えてくれる。仕事への深い愛情と、日々の小さな楽しみを見つけること。これこそが、石井さんの長寿と活力の秘訣なのかもしれない。
