日本社会は、すでに「医療崩壊」の初期段階に直面しています。2025年10月には、国立大学病院の多くが過去最大の赤字を計上したことが明らかになり、医療現場の厳しい財政状況が浮き彫りになりました。しかし、地域医療の要である民間病院は、これ以上に過酷な経営環境に置かれています。大田区で中規模病院を経営し、認知症ケアの専門家として長年患者と向き合ってきた京浜病院院長の熊谷賴佳氏もまた、この地域医療の窮状に深い懸念を示しています。日本の医療・福祉の未来は一体どうなるのか、その最前線からの警鐘に耳を傾けます。
進行する日本の「医療崩壊」と地域医療の現状
今年10月に公表された国立大学病院会議のデータによると、全国42施設の国立大学病院の現金収支見込みは、過去最大の400億円超の赤字に達し、医療体制の脆弱性が露呈しました。しかし、日本の医療を支える民間の中小規模病院は、より深刻な経営困難に陥り、閉院が相次いでいます。京浜病院院長の熊谷賴佳氏は、こうした状況が続けば、地域住民が気軽に相談でき、必要な入院治療を受けられる場所が失われ、医療へのアクセスが困難になると警告しています。
前頭側頭型認知症の事例から見る「救えない未来」
東京都内のある区営住宅に住む90代の女性は、真夜中に大音量で音楽を流したり、ベランダから汚物を捨てるなどの迷惑行為を繰り返していました。近隣住民が手に負えない状況となり、行政を通じて地域包括支援センターのケアマネジャーが、女性を京浜病院に連れてきました。診断の結果、彼女は前頭葉と側頭葉の萎縮による人格変化や行動異常を引き起こす「前頭側頭型認知症」であることが判明。さらに極度の栄養失調に陥っていたことも分かりました。適切な治療とケアにより、彼女は健康を取り戻し、迷惑行為も収まりました。
認知症患者は今後苦境に立たされる
熊谷院長は、この事例が「今だから救うことができた幸運なケース」であると強調します。現状のままでは、5年後、10年後には、同様の認知症患者が適切な医療や福祉の支援を受けられなくなる可能性が高いと指摘しています。
深刻化する認知症患者数の増加と医療・福祉の受け皿不足
日本の高齢者人口に占める認知症患者の割合は、高止まりの傾向にあります。団塊の世代が全員80代に突入する2030年には約523万人、さらに2035年には566万人、2040年には約584万人にまで増加すると推計されています。全人口が減少する中で、認知症患者だけが右肩上がりに増え続けるという深刻な状況です。この中には、前述の女性のように社会性を欠く行動障害(BPSD)を伴う前頭側頭型認知症患者も約1%含まれており、特別なケアが必要とされます。
一方で、医療や福祉の現場は、この急増するニーズに対応できる体制が全く整っていません。地域医療を支えてきた中小規模病院の閉院が相次ぎ、介護施設の数も圧倒的に不足しています。厚生労働省は在宅介護を中心とした「地域包括ケア」の推進を図っていますが、これを実際に担う人材が決定的に足りていないのが現状です。
放置すれば社会はどうなるか?
この状況が改善されずに放置されれば、認知症患者は適切な医療・介護サービスを受けられないまま、高齢者による失火や交通事故、迷惑行為が多発する社会となるでしょう。さらに、行き場を失った認知症の高齢者がコンビニエンスストアなどの公共施設に溢れかえるといった、社会秩序の混乱を招く事態も現実のものとなりかねません。
結論
日本の医療現場は、深刻な財政難と高齢化による認知症患者の増加という二重の課題に直面しています。地域医療を担う病院の経営困難、介護施設や在宅介護を支える人材の不足は、喫緊の課題であり、このままでは多くの認知症患者が適切なケアを受けられなくなる「医療崩壊」の危機が目前に迫っています。京浜病院院長の熊谷賴佳氏の言葉は、この重大な社会問題に対する早急な対策の必要性を強く訴えかけています。国民一人ひとりがこの現実に目を向け、持続可能な医療・福祉体制の構築に向けた議論と行動が今こそ求められています。
参考文献:
Yahoo!ニュース. (2025年11月30日). 認知症患者は今後苦境に立たされる [Source link]. Retrieved from https://news.yahoo.co.jp/articles/02d58d5e72aec878c7d71588850753e36210892a





